かつて、家庭用ビールと言えば「キリンビール」一強の時代が長く続いていた。お父さんたちは判で押したように酒屋からキリンの瓶ビールをケース買いしていたものだ。
それが大きく変わった転換点が、アサヒビールから「スーパードライ」が登場した1987年。瓶から缶への大きなうねりとともに“生ビール”が主流になっていった。生ビールは、「キリンビール」のような熱処理したビールと区別する意味では非熱処理ビールということになる。
熱処理したビールが主流だったのは、生きた酵母が入っていると賞味期限が短くなってしまうことから、熱で酵母を殺していたため。が、濾過技術の向上によって、熱処理しなくても酵母を取り除けることができるようになったことも生ビール浸透に拍車をかけた。そのため、いまでは熱処理したビールはごく僅かとなったが、好んで飲む、往年のコアなファンの人たちも一定層いる。
スーパーでビールコーナーの棚を覗いてみると、「キリンラガービール」の6缶パックの箱に“130”年という文字が入っている。1888年に発売された、歴史の古いビールなのだ。ただ、前述した「スーパードライ」の攻勢でガリバーシェアを誇っていたキリンがジリジリとシェアを落とす過程で、看板ビールの戦略は揺れ動いた。
1988年、まず「キリンビール」を「キリンラガービール」に改め、その後、1996年になると名称はそのままに生ビールへと変更。1990年に投入してヒットした「一番搾り」と「ラガービール」の二兎を追う作戦に出たのだが、生化によって往年のファンが離れてしまったのだ。
そこで2001年、生化した「キリンラガービール」とは別に、熱処理したものを「キリンクラシックラガー」として再発売し、今日に至っている。
スーパーでは両商品とも通年商品として棚に並んでいるが、「ラガービール」が「一番搾り」同様、6缶パックや500ml缶も置いているのに対し、「クラシックラガー」は350ml缶のみで、置かれている棚もクラフトビールと同じ配置になっていた。ちなみに「ラガービール」のアルコール度数は5%、「クラシックラガー」は4.5%とやや低めなのも往時とまったく一緒だが、苦みが強めの「クラシックラガー」は、いまや伝説のクラフトという領域に入ってきているのかもしれない。