殺人的な暑さとなっている今年の夏。こんなときこそ、怪談で涼しくなってみては…。その美しい容姿からは想像もできない語り口で知られ、“かわいすぎる怪談師”としても話題を集めている山口綾子さんに身の毛もよだつお話を語ってもらった──。
これは、私の怪談ライブに来てくださったお客さんが体験した話です。
ライブ開始前、会場入りするためエレベーターを待っていた時、ライブを見に来てくれた女子大生グループとたまたま一緒になりました。
でも、なかなかエレベーターが来ません。そこで、階段で行きましょうか、と提案しました。すると、グループのうちの1人が突然顔をこわばらせ、強い口調で言うんです。「嫌。私はエレベーターにします」
その頑なな態度が私の脳裏に強く残ったこともあり、ライブ終了後、会場の外で彼女たちと再び顔を合わせた時、記念に写真を撮りませんかとお誘いしました。
しかし、その女性だけは絶対に一緒に写ろうとしません。異様な空気を感じた私は、思わず話しかけていました。
「何かあったんですか?」
女性は、目を伏せたまま、しばらく黙っていました。そして、今にも泣きそうなひきつった顔で、「私が高校生の時の話なんですが、聞いてくれますか?」そう言って、話し始めたのです──。
女性の名前は唯さん(仮名)。高校3年の時、放課後の教室で、同じクラスのA子・B子と3人で、スマホで互いに互いを撮り合って遊んでいたそうです。それは、撮影した相手の顔だけが入れ替わるというアプリで、A子とB子が互いに互いを撮り合った場合、A子の顔の部分だけがB子に、B子の顔がA子に入れ替わるというものでした。
3人で写真を撮り合い、撮り終えたところでスマホ画面を見ると、A子とB子の顔は入れ替わっているのに、なぜか唯さんの顔だけ、その場にいる誰でもない誰かに入れ替わっていました。
その顔は全体的に歪んでいて、一見するとふざけた変顔のようでした。
「何これ、すごい顔」
「面白いから唯ちゃんのをスマホの待ち受けにしようよ」
3人は特に深く考えず、その写真を待ち受け画面にしてひとしきり遊んだ後、帰宅の途につきました。
翌朝、唯さんはいつものように登校。教室がある4階に上がろうと、階段に足をかけたその時です。突如、背後から何かに追い立てられるような、強い焦燥感に襲われたのです。
──早く、早く上に行かなきゃ、上に行って──あれ…上に行って、私、何するんだっけ…。
おかしい、私、何考えたんだろ? そう思いましたが、教室に着く頃には「気のせいだったのかも」と思い直していました。そこに、ガッと引き戸を開け、血相を変えた担任教師が動揺した様子で現れ、こう言いました。
「みんな、気を落ち着けて聞いてほしい。昨日、1組のC子が自殺した」