映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・秋野太作が、『俺たちの旅』で三枚目を演じたことの思い出、初めて桃井かおりとドラマで共演したときに共演者たちと話し合ったときの言葉をお届けする。
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秋野太作は一九七五年にテレビドラマ『俺たちの旅』(日本テレビ)に出演、中村雅俊、田中健と共に主人公グループの一人・通称「グズ六」を演じた。
「これは非常に楽しかった。若い人ばかりで自由な雰囲気なのよ。いつも思うんだけど、上手い下手じゃなくてみんなはつらつとやるのが大事なんだ。偉い人がいないって、ありがたいよ。監督も脚本家も若くて、みんな『いよいよこれから』というところで歯車が噛み合ったと思う。
あの時もどこか隙間というか、ズレを演じたんだ。三人レギュラーがいる時は、キャラクターがくっついてると面白くない。二人は二枚目で格好良さを一生懸命に出してくるのが読める。中村雅俊は漱石の『坊っちゃん』みたいに来るだろうし、新人の健ちゃんは美男だから二枚目系統で来る。そこは動かせないんだ。そうなると僕のポジションがそこから離れなきゃならない。
つまり、格好良くない人間を生きるということ。そのためには喜劇味というものが必要になってくる。役柄に面白味をつけるということだよね。
そういう役をやれば人気が湧くわけはないけど、そこをやるわけだよ。そうするとファンはつかないけど作っているほうは認めてくれる。人気とか憧れの対象とか、二枚目とか三枚目とか、そういうのはどうでもいいんだ。役者を始めて最初から興味があったのは人間。それでこの世界に入ってきたから、格好いいことして人気者になることには興味はなかった」