2020年卒業予定の大学生たちの事実上の就職活動が始まっている。企業側も優秀な学生を確保するため、今後、会社説明会・セミナーなどで本格的な企業PRを行っていくことになる。その際、企業側が用意する映像には学生獲得の意気込みがうかがえるケースと、そうではない「残念」なケースがあるという。『学歴フィルター』(小学館新書)の著者で就職コンサルタントの福島直樹氏が解説する。
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企業側が会社説明会などで流す映像には、経営者が理念を語ったり、単に事業を説明したりするだけでなく、先輩社員たちが登場して現場の様子を紹介するものも多い。学生たちが入社後の仕事を想像しやすかったり、あらためて「こんな先輩社員のように働いてみたい」と志望動機を強めたりすることが期待できるからだろう。
ただし、その手の映像は企業によってかなりの差がある。
2019年卒業予定の大学生を主な対象とした新卒採用は、夏前に続々と内定が出て、いまは最終盤を迎えている。この時の採用活動で、大手企業の中でも特にクオリティが高い映像を制作したのが伊藤忠商事だ。
同社食料カンパニーの部長、通称“ゴマ部長”が世界を舞台に働く姿を映している。日本で食べられるゴマの99.9%は輸入で、そのうち約半数を伊藤忠商事が扱っているという。
映像はゴマ部長が産地である南米・パラグアイを出張で訪れた時の様子を伝えており、テレビ局が制作するドキュメンタリー作品さながらである。とてもリアリティーがあり、そして観た者に「かっこいい」と思わせる、グローバルに活躍するビジネスパーソンというイメージを効果的に伝えている。
そして最後に「ひとりの商人、無数の使命」というメッセージが表示されて終わる。他の大手総合商社と人材獲得競争を繰り広げるなか、ライバル社よりも学生へのアピールが上手だと感じた。
これは推測だが、資源系に強みを持つ三菱商事、三井物産に対して、食料、繊維、住生活など非資源系に強みを持つ伊藤忠商事は、どちらかというと商社のなかでは“地味”だった。2016年3月期に純利益で総合商社首位に立ったとはいえ、ライバル社に対して一歩も二歩も先んじて学生にアピールしなくては優秀な学生を他社に取られてしまうという危機意識があるのではないか。
一方、とても残念な映像を流す企業も少なくない。先輩社員が登場するところは同じなのだが、明らかに台本が用意されていて、社員がセリフを棒読みしている。先輩社員が働いているリアルな姿は映されず、生の声も聞けない。用意されたセリフに学生は「嘘」を感じるだろう。実に多くの人気業界、人気企業でこのケースが確認できる。