「米国の西海岸は山林が多く、ほとんどが原始林。敵さんが一番恐れているのは山火事である。自然発火することもまれにある。西海岸の大森林でいったん火災が起きると、消しようがない。猛烈な熱風が近隣の町を襲い、炎はすべてを焼き尽くす。こうなると、多くの住民は命からがら避難しなければならない。焦熱地獄で心身ともに疲労困憊してしまうのだ。従って敵のもっとも苦痛とする森林火災を、飛行機から焼夷弾を投下して発生させれば、その効果は絶大である」

 藤田は殿下に最敬礼し、米国西海岸の地図を受け取り、会議室を出た。

「よし、やってやるぞ」

 この空襲が成功すれば、敵は本土防衛に多大な精力を注がなくてはならなくなる。帰りの電車で一人、藤田は興奮した。

 潜水艦作戦担当の井浦は戦後、伊号二五潜水艦を選んだ理由として、艦長の田上明次(中佐)が極めて有能な指揮官であったこと、そして藤田信雄という水上機のエースパイロットがその艦に乗っていることを考えてのことであったと明らかにしていた。

◆「爆発。燃えています」

 二五潜水艦は米国オレゴン州のブランコ岬灯台の光芒を望む二十五カイリの沖合に浮上した。

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