まだまだ暑い日が続き、高齢者の脱水や熱中症が心配だ。中でも脱水が引き金になり、高齢者には命にかかわる恐れもある“せん妄”は、意外にもその実態が知られていない。
認知症やうつに症状が似ていたり、別人のように豹変して家族を困惑させたりするが、適切な治療や対処が必要だ。高齢者医療に詳しい、たかせクリニック理事長・高瀬義昌さんに、家族が知っておくべき“せん妄”について聞いた。
せん妄はさまざまな原因により起こる意識障害。どんな人にも起こるが、特に高齢者、認知症状がある人、脳卒中など脳血管疾患になったことのある人はリスクが高いという。高瀬さんはわかりやすい症状の特徴を挙げてくれた。
「まず、突発的であること。1日のうちでも症状が急激に変化する。さっきまで機嫌よくしていたのに、突然人格が変わったように激したりします。また、認知機能障害が起こります。見当識障害といって、今の時間や場所が急にわからなくなり、目の前の人が誰か、さらには自分が誰かもわからなくなる場合もあり、大混乱に見舞われます。注意障害や集中障害が起きると“これ以上進むと危ない”ということがわからなくなり、命に危険が及ぶような事故にも至ります。運転中にせん妄が起きた場合などは、特に危険です。
そして、行動不穏。明らかにいつもと様子が違う。イライラ、興奮、錯乱などが起きる過活動型は、普段、穏やかな性格の人が突如、攻撃的になり、大暴れをして自身が転倒し、骨折するような事態にもなります。注意が必要なのは低活動型。ボーッとして無気力になり、不安や悲しみ、眠気にも襲われます。静かなので周囲に気づかれにくいのです。さらに過活動型と低活動型が混在する場合もあります」
ほかにも、実際にはいない人や動物、物が見える幻視、恐ろしい幻覚や妄想に見舞われる、昼夜逆転して日中は寝ぼけた状態、夜中に落ち着きなく動き回るようなことも。
いずれも認知症に似ているが、区別する必要がある。
「認知症の機能低下はゆっくりで、基本的に戻ることはありませんが、せん妄の場合は急激に落ちて、数時間から数日でおさまります。認知症の人は記憶障害のため、話す内容が事実と違うことはあっても一貫したストーリーがある。せん妄が起こると自分自身がわからなくなるので話は支離滅裂。ストーリーがありません。認知症があっても、いつもと表情や反応が違うと思ったら、せん妄を疑いましょう」