昨年初場所の千秋楽で、当時大関だった稀勢の里が、横綱・白鵬を破って第72代横綱昇進を決めた一番の直後、本誌・週刊ポスト記者にこんな電話がかかってきた。
「まさか、俺が生きているうちに、こんなガチンコ時代が来るとは思わなかったよ。引退後はあまり相撲中継を見ていなかったけど、去年(2016年)あたりからしっかり見るようになった。ガチンコ力士が増えて、何が起きるかわからないから面白いよ。やっている力士は大変だろうが、見ているほうは最高だ」
電話の主は、板井圭介氏(元小結・板井)だった。14日、板井氏は自宅で倒れている状態で発見され、搬送された病院で亡くなった(享年62)。板井氏は現役時代、八百長相撲の仲介役である「中盆」として知られていた。
1980年に始まった本誌の「角界浄化キャンペーン」は、八百長工作の仕掛け人だった元十両・四季の花の告発を皮切りに、数多くの実名証言と物証から八百長の実態を明らかにした。
そのなかでも、とりわけ注目を浴びた証言者が、横綱・千代の富士の53連勝(1988年)の裏側を暴露した板井氏だった。板井氏の保管していた“記録”は克明で、15日間の勝敗が書き込めるスポーツ紙の番付表には、「ガ(=ガチンコ)」「八(=八百長)」の文字がびっしり書きこまれていた。