警察の内部事情に詳しい人物が関係者の証言から得た、警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、お祭りの屋台が国際色豊かになってきている背景を、元暴力団組長の話から解き明かす。
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ここ数年、夏祭りの景色が変化していることに気付いてはいた。立ち並ぶ屋台が国際色豊かになってきているのだ。プルコギ、チャプチェ、チヂミにホットク、大連餃子に焼小龍包、トルコアイスにケバブ…。外国人観光客の増加に伴ってということかと思っていたら、その内情はどうやら違うらしい。
「暴排条例が日本の文化を損ねているんだよ」
追われる側の話も聞こうと、焼き肉を食べながら今は引退している元暴力団組長に取材している最中、こんな言葉が元組長の口から飛び出てきた。興味があるので、それはどういうことなのか?と突っ込んで聞いてみた。
「それは屋台、テキ屋のことだよ」
暴力団排除条例の施行で、そのスジのテキ屋組織では解散するところも出たが、多くのテキ屋は暴力団とは関係がないはずだ。
元組長の隣で、若い衆がカルビを焼き始めた。ジューッという音とともに肉の焼けるいい香りが鼻をくすぐる。部屋はもちろん個室だ。
「テキ屋もテキ屋組織として昔からの名前があるんだけど、暴力団が強い時期に、いじめられたり脅かされたりするのが嫌で、こっちに入ってきたのがけっこういてね。そうすると、警察からは暴力団組員と認定されてしまう。指がないとか入れ墨を入れるとか、前科があるとなると、テキ屋として商売をするための道路許可証は取れないんだ」
暴排条例以前は、元組長の組織もテキ屋を稼業の1つとしてやっていたという。今はもう手を引いたのかと聞いてみると、意味あり気に口の端を上げて笑った。若い衆は知らんぷりだ。
「神社内のことは神社が決めるんだが、神社外の敷地は自治会が関係するし、道路が引っかかってくると、警察の道路許可証と営業許可が必要になる。提出書類は指定があって、住民票と写真、過去5年間に犯罪歴がないかどうかの証明書が必要だ。これは警察で取ってくる。犯罪歴があれば許可は下りないし、暴力団組員と認定されていれば許可証は取れない。今では身内が取るのも難しいね」
いい加減に焼けたカルビを、若い衆が元組長の皿にのせていく。たっぷりとタレをつけた肉を、うまそうにほお張る元組長。
「さて、そこでどうするかだ」
ウーロン茶を一口飲むと、手にしたグラスをテーブルに置いた。グラスの中の氷がカチンと鳴った。元組長は酒を飲まない。
「テキ屋は間口三寸といってね。誰も許可証が取れないとなると、おのずとテキ屋の場所が余ってくる。余ったといって、普通の人がやれるかといえば、テキ屋は技術屋だからそう簡単にできるもんじゃない。綿菓子作るにも何年もやっていないと、あんなにきれいな綿菓子はできない。たこ焼きもそうだよな?」
そう言って、箸でキムチをつまみながら若い衆の顔をのぞき込む。
「…ですね。素人の作ったたこ焼きなんて、あんなもん、まずくて食えたもんじゃないですよ」
すかさず頷いた若い衆だが、まずいたこ焼きを思い出したのか、吐き捨てるよう言って、焼いていたカルビを網にジュッと押さえつけた。