近年、日本で沸き起こっている赤身の“熟成肉”ブームに乗って、海外で人気の高級ステーキ店が続々と日本進出を果たしている。中でも、日本上陸が2014年と早く、熟成ブームのけん引役となってきたのが、「ウルフギャング・ステーキハウス」だ。
2004年に米ニューヨークのマンハッタンに1号店をオープンさせた同店は、瞬く間に人気店となり、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏や俳優のロバート・デ・ニーロ氏、そしてトランプ大統領なども顧客に名を連ねる。
日本では現在、東京・六本木と丸の内、大阪、福岡の4店舗を展開。予約の取りにくい人気ステーキ店として、やはり政財界、芸能界にもファンが多い。
サーロイン、フィレの熟成肉が同時に味わえる「プライムステーキ」は2名用で1万6000円(税・サ別)と高額のため、ハレの日のご馳走であるのは間違いないが、多くのリピーターを獲得できる味の秘密は何か──。7月に来日していた創業者のウルフギャング・ズウィナー氏(79)に直接聞いた。
「店で提供しているのは、米国農務省(USDA)から最高ランクの『プライム』グレードに格付けされた牛肉だけで、米国産牛肉のわずか2パーセントしかない希少なものです。それを日本には1週間に約10トン、冷凍ではなく冷蔵のまま空輸し、各店が自前で持つ熟成庫に運びます。
熟成庫では、温度や湿度などを一定管理しながら28日間、風を当ててドライエイジング(乾燥熟成)させます。そうすることで肉質がとても柔らかくなり、肉の持つ旨み成分がぐっと増すのです」(ズウィナー氏)
その絶妙な熟成方法は、ズウィナー氏が2003年まで40年以上ヘッドウエイターとして働いてきたニューヨークの老舗ステーキハウス「ピータールーガー」で学んだ。本当は、引退後は南の島で悠々自適の生活を夢見ていたというズウィナー氏だが、投資銀行家だった息子の助言もあり、独立を決意したという。
「ウルフギャングはピータールーガーよりもワンランク上をいく店にしようと思いました。
当時、ピータールーガーは肉以外のサイドメニューはトマトとオニオンぐらいしかありませんでしたが、ウルフギャングは様々な前菜やシーフードを取り入れ、幅広いメニュー構成にしました。また、テーブルには真っ白いクロスをかけてハイエンドな接客サービスの向上にも取り組みました」(ズウィナー氏)
BSE(狂牛病)問題による輸入規制もあり、日本への進出は計画より遅れたものの、本場ニューヨークでのズウィナー氏の活躍は1号店オープン後から知れ渡り、ニューヨーク・タイムズ紙に“ウエイター、40年経ってボスになる”と大々的に紹介されたほどだ。