【書評】『大学的長崎ガイド──こだわりの歩き方』/長崎大学多文化社会学部・編 木村直樹・責任編集/昭和堂/2300円+税
【評者】山内昌之(武蔵野大学特任教授)
五島列島福江島の東シナ海に突き出た丸い半島の突端に空海の石像が立っている。偉大な先人の「辞本涯(じほんがい)」の碑を最初に見た時の感動を忘れられない。また一八七一年に、上海との海底ケーブルによって第一歩を印した国際通信の起点も長崎であった。遣唐使、朝鮮通信使、オランダ貿易船も必ず今の長崎県の地を通ったのである。世界と過去につながる国際性の豊かさで長崎は日本屈指の県なのだ。
対馬や壱岐を含めて面的な広がりをもった国境地帯の魅力を扱った本書は、長崎大学多文化社会学部の編集になるだけに、まさに「大学的ガイド」として高い水準の案内書である。それでいて非常に読みやすくて面白いのだ。
端島を軍艦島と呼ぶのは誰でも知っている。しかし、その名がワシントン会議の軍縮によって廃艦となった戦艦「土佐」に由来する事を知る人は少ない。この「土佐」を愛惜した丸山芸者・愛八の歌は、「土佐は好子(よいこ)じゃ」で始まるが、これほど切ない好曲も少ない。
三菱重工長崎造船所が造った「武蔵」も812日間で短い艦齢を終えた悲劇の船である。世界最大の巨艦の進水時、長崎港の水位は一時的に上昇し、対岸の浪ノ平では床上浸水が発生した。「武蔵」を設計した優秀な技師、建造に当たった不屈の造船工、乗艦した人びと、「それぞれが抱える想いは否定されるべきものでは決してない」という指摘は重い。