国民の8割が戦後生まれの現代日本において、戦争の悲惨さを知る人は少なくなっている。自らも戦争を経験し、吉永小百合(73才)が胎内被爆をした芸者を演じた『夢千代日記』(NHK)をはじめさまざまな作品を通して平和の大切さを伝えてきた脚本家の早坂暁さん(享年88)も、昨年12月に亡くなった。彼が最期に残したメッセージは、平和への祈りと次世代への愛が込められたものだった。
「深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」
『全国戦没者追悼式』にて噛みしめるように読み上げられた、天皇陛下のお言葉。陛下の深い一礼をもって、平成最後の終戦記念日が静かに終わった。73年が過ぎ、太平洋戦争の記憶は歴史上の出来事になりつつある。その凄惨さや命の大切さを語り継いできた体験者も次々と鬼籍に入る現代、自殺で自ら命を落とす若者や、わが子を虐待によって死に追いやる親も少なくない。
戦争体験が風化するにつれ、生きる尊さが失われる中で、『あなたたちに伝えたいこと』と題した1000文字が多くの人の胸を打っている。
『夢千代日記』(NHK)や『花へんろ』(同)をはじめ、ドラマや映画の脚本家や小説家として活躍した故・早坂暁さん(享年88)が、故郷である愛媛県松山市の北条北中学の生徒たちに宛てた “最期のメッセージ”だ。
「宿題や授業で使ったプリントを持ち歩くためのクリアファイルの一番上に入れて、毎日学校に持って行ってます」
丁寧に折りたたまれた一枚の紙を手に、楠岡菜月さん(14才)が言う。
「友達とけんかしちゃったり、家族に八つ当たりしちゃったりしたときに取り出して読み返すんです。『あなたたちの前には未来と大きな可能性があります』という言葉を読むと気持ちが落ち着いて、勉強、がんばろうと思える。最近、周りの人にも少し優しくできるようになった気がします」
◆吉永小百合がファクスの前で原稿を待っていた
思いの込もったメッセージが松山市に届いたのは、昨年の10月。依頼した『北条地区まちづくり協議会』広報部の西山陽一朗さんが言う。
「地域活性化の1つとして、若い世代にももっと早坂先生を知ってほしいと、著作や功績を展示する特別展を企画しました。それを聞いた地元の中学生たちが先生のことを調べて授業で発表したいと見学に来ることになり、ならばご本人から若い世代に、少しでもメッセージをいただけないかと思い、お願いしました」