「うちに主人公たちと同年代の子供が三人いたんだ。この子供たちに見せてやりたいと思ってオファーを受けたんだ。
声をかけてくれたのは東映の東京撮影所のメインから外れた人たち。組合で頑張ったために、睨まれて端に追いやられていた。ところが才能があるんだ。それにみんな人格者だった。それに脚本も面白かったからね。
摩天郎以外にも妖怪千年婆というのに化ける回があったんだけど、この時は自分でメイクをやったんだ。プロデューサーは代役を立てるといったんだけど、やりたくてね。そしたら、下の娘が泣き出すくらい怖かった。
これは僕の密かな自信作です。思い出しても楽しい」
自由闊達な現場こそ良い芝居を生み出すと考える秋野の目からすると、近年の撮影現場では気になることがあるという。
「交流がなくなったね。俳優の世界って、実は演技する前の段階が大事なんだよ。弁当を食ったり、待ち時間に喋っている間に馴染んでいくんだ。現場に行ってセリフだけ交わしても、なかなか馴染まない。難しいんだ。だから、僕と渥美清さんや緒形拳さんが馴染んだようなことって生まれにくい状況だと思う。
今はみんな、妙に商品価値を高めようとしている。ブランディングに一生懸命なんだ。だから若い俳優への扱いにスタッフがピリピリしている。一番下のADさんが『ナニナニさん入りまーす』とか言ってさ。そういうの、おかしくてしょうがない。
俳優の演技ってフレンドリーじゃないと。地の段階で人間関係を作っていかないと、上手くいかないんだ。『天下御免』も『必殺仕掛人』も『男はつらいよ』も『俺たちの旅』も、上手くいった仕事はそこが成立していた。今はそういうことが生まれにくいように思える。とにかくみんなピリピリしている。そんな時代になってきたね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/横田紋子
※週刊ポスト2018年9月7日号