「私、夫を許せるかどうかわかりません。でも、夫と別れるつもりはありません」。夫の不倫相手に、勇気をもってそう向かい合った中谷美紀(42才)。しかし、不倫相手も黙って聞いてはいない。
「そもそも、許すとか、許さないとか、あなたは誰かを許せるようなご立派な人間なの?」
周囲からも「浮気される方にも原因がある」と助言された中谷は思い悩んでしまう。事情があれば、不倫も仕方ないことなの? いや、そんなはずない。不倫された側に責任なんて! でも、やっぱり…。頭の中は、ああでもないこうでもないと結論が出ないまま、徐々にふさぎ込んでいく──。
最近、「浮気された妻=サレ妻」を主人公にしたドラマが続いている。冒頭は、今年4~6月に放送された中谷主演の『あなたには帰る家がある』(TBS系)のワンシーンだ。年初の『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)でも、仲里依紗(28才)が浮気された妻を好演した。
今まで「不倫ドラマ」といえば、故・川島なお美さんの『失楽園』や、上戸彩の『昼顔』に代表されるように、「浮気する側の背徳感で燃え上がる恋」を描くのが当たり前で、「浮気された側」にスポットはほとんどあてられなかった。しかし、『あなたには帰る家がある』や『ホリデイラブ』ではむしろ、「サレ妻の揺れ動く心情」が濃密に描かれた。
理由の1つは、有名人の不倫のニュースが世間を騒がせ、「あんな人も、こんな人も不倫しているのか」と、不倫が一般的になったこともあるだろう。
昨今はスマホでSNSを操れば、すぐにたくさんの友達とつながれる。恋人探しに特化した「マッチングアプリ」の登場で、割り切った関係を探すのも容易になった。実際に、性生活に関するさまざまなアンケート調査を見ると、およそこの20年で不倫率は2倍に増えている。
だが、サレ妻がドラマの主人公になったのは「不倫が増えたから」という理由だけではない。昭和以前の妻にはそもそも、物語の主人公になるような「選択肢」がなかった。
文豪・太宰治が短編小説『ヴィヨンの妻』(1947年)で描いたサレ妻は、浮気を繰り返す放蕩夫に迷惑を掛けられながらも、静かに我慢してついていく女性だった。同じく昭和の名作『死の棘』(島尾敏雄著)では、妻は精神的におかしくなって夫をなじり続けるが、家族として一緒に暮らし続けるのは変わらない。