中国では共産党政権による愛国主義キャンペーンが盛んに行われているが、8月には「習近平国家主席の重要指示」として、新たな「愛国主義者」がクローズアップされた。その人物は今年7月に病没した王継才氏(享年58)。
国営新華社通信は習氏が「王氏の先進事績」について、「彼の愛国奉献精神を全力で称え、新時代の奮闘者のための価値追及に役立たせなければならない」と強調する重要指示を出したなどと報じたが、習氏が愛国主義者を指名するのは初めて。さらに、王氏が死亡して、1カ月も経っていない時期に、あまりにも唐突な動きであり、政治的な背景があるのではないかとの観測が出ている。
王氏はもともとは民兵で、江蘇省連雲港市沿岸の開山島と呼ばれる、面積が甲子園球場のグランドほどしかない小島の“守り人”。正式な役職は島の警備を任務とする「開山島哨所所長」だった。
王氏は1986年7月、27歳で開島に着任。死亡するまで32年間、所長として島を守ってきた。とはいえ、所長といっても、島に常駐しているのは王さん夫妻の2人だけだった。
新華社電などによると、王氏は初上陸した記念すべき日のことを「島があまりにも荒れていて、1時間もしないうちに帰りたくなりました」と振り返っているが、夫婦が32年間、1日も欠かさずに行ってきたのは、毎朝の国旗掲揚だ。
島に観光客が来るわけでもなく、基本的に時間は有り余るほどあった。島には電気が通っておらず、夫婦2人の唯一の娯楽はラジオで、赴任してからの25年間で使用したラジオは19台。しかし、3年前に、江蘇省軍区が風力発電機と衛星テレビ受信機を設置してくれたことから、テレビも見られるようになっている。