その一連のプロセスに不具合が出るのが嗅覚障害だ。風邪や鼻炎などで鼻腔内の粘膜に腫れなどができる「気道性嗅覚障害」や、匂いの分子をキャッチする「嗅細胞」が機能不全に陥る「嗅神経性嗅覚障害」は、耳鼻科を受診してステロイドや亜鉛、ビタミンなどを処方されればほぼ改善する。
厄介なのは、「鼻」ではなく、「脳」の機能不全が原因で生じる「中枢性嗅覚障害」だ。星薬科大学先端生命科学研究所特任教授の塩田清二氏が指摘する。
「『中枢性嗅覚障害』は、事故などで強く頭を打ちつけて匂いの情報をキャッチする脳神経が傷ついたり、切断されることで起こるケースと、その脳神経の感受性が悪化することで生じるケースとがある。前者は事故などのきっかけがあったり、わかりやすい外傷とともに起きるので病院で治療をしやすいが、怖いのは後者。自分ではなかなか気付きにくい上に、認知症や脳腫瘍などの疑いがあるからです」
◆食べ残しが増えた
塩田氏によると、記憶や認知といった脳の機能と、嗅覚は密接に関連するという。
「人間は嗅覚、視覚、聴覚、触覚、味覚という五感を使って外界の状態を認識しますが、この中で嗅覚の情報だけは、脳の中枢部にある大脳皮質へダイレクトに伝わります。また、大脳皮質のなかでも、記憶や感情を管理する海馬や扁桃体の周辺にインプットされる」(塩田氏)