グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
料理研究家の土井善晴氏(61)が持ってきたのは、自然を学んだ師匠が、最後に仕込んだ赤味噌だった──。
皿に盛られた5年物の赤味噌。
「ある一面の師匠、味噌マイスターの雲田寛氏が生前最後に仕込んだ味噌です。20キロあったのも、もうこれだけ。貴重すぎて惜しみながら使っています」
20年来懇意にした雲田氏とは毎年山で山菜やきのこ採りをした。都会育ちの土井氏にとって、雲田氏の自然の中での振る舞いは全てが魅力的だった。多くを学んだが、「何より一緒にいることが嬉しかった」と振り返る。
20代は国内外の一流店で腕を磨くも、父の料理学校の手伝いのため、渋々家庭料理の道へ。しかし、取り組むほどに人々の暮らし、季節、自然などと関わる幅広さと面白さに目覚める。