白馬に乗ったチャールズ・ブロンソンが荒野を駆け、水を頭から浴び、顎を撫でて「う~ん、マンダム」──。昨年90周年を迎えたマンダム社の、1970年代に一世を風靡したCMだ。CMソングは130万枚の売り上げを記録し、店頭に貼られたポスターは次々と持ち去られた。CMを制作した西谷尚雄氏(当時大阪電通)が、ブロンソン起用のいきさつを語る。
「周りからは『ハリウッド俳優なんて使えるわけがない』と呆れられましたが、ビートルズの来日を実現させたプロモーターの永島達司さんを通してオファーを送ると、『ブロンソン映画の宣伝に好都合』と破格に安い出演料3万ドル(約1000万円)で承諾してくれたのです」
当時、ブロンソンとアラン・ドロンが共演した映画『さらば友よ』が日本でもヒットしていたが、2人の知名度の差は歴然だった。「男性化粧品のCMなら美男のドロン」に傾いていたマンダムの西村彦次社長が、最終的にブロンソンを指名したのは、西谷氏と演出を担当した映画監督・大林宣彦氏の熱意だった。
渡米して撮影に入ると、ブロンソンは大林監督に「僕の人生初の単独主演作品。何でも一所懸命やるから」と握手を求めてきた。
「西部劇の聖地として知られるモニュメントバレーでの撮影を提案すると、『僕にも憧れの場所だが、家族も一緒で良い?』と。結婚したばかりのジル・アイアランドと前妻の子どもたちを呼んで、総勢20人のロケに(笑い)。強面なイメージですが、愛妻家で家族思いなんですよ」(大林監督)