この作品の成功により、「契約結婚」はヒットの定番となるかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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綾瀬はるか主演のドラマ『義母と娘のブルース』(TBS火曜午後10時)の勢いが止まらない。9月4日放送の第8話でまたもや記録を更新。平均視聴率15.5%(関東地区)と右肩上がり、今期連ドラ1位という数字を叩き出しています。同枠で大ヒットしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を凌駕するのでは、とも期待され、注目される『ぎぼむす』。いったいこのドラマの何が「凄い」のでしょう?
とにかくまず最初に視聴者の目を惹くのは、綾瀬さんが演じるキャリアウーマン・岩木亜希子の異様さでありユニークさ。
日常生活でもスーツ姿にパンプス、娘に敬語を使い直角に頭を下げる。パン屋の兄ちゃん・麦田 (佐藤健)に対してもビジネストークでプレゼン。どこかぎくしゃく不器用で、感情が表に出ない鉄面皮。キャリアウーマンの“理屈”“正当性”をぐいぐいっと前面に押し出していくその姿が、何ともコミカル。
と、綾瀬さんの演技は一風変わっています。
ところが、話の主軸の方は違う。母と娘の心の交流が丁寧にきちっと描かれたり、第8話のオチなんて「先代の味を継ぐ」「パン作りには思い入れが大切」と実に正統派。人情味のあるハートウォーミングなドラマ展開となっています。
つまり、「風変わり」と「古風」の絶妙な掛け合わせこそ、このドラマのヒット要因ではないでしょうか?
風変わりなドラマ設定をすれば、目新しいけれど、とっきにくい。コアなファンは生まれても、一般の視聴者に広く訴えかけることはできない。一方、「古風」「正統」なテーマだけでは地味で目立たない。今「家庭」ドラマを普通に作ってみても、かつて見たようなものにしかならないし、視聴者が「家族」の本質について考えるとも思えない。下手をすれば説教クサくて嫌などと言われてしまうかもしれません。
ところがもし……突然やってきた義母が「ビジネスパーソン」そのもののだったら? 感情表現の苦手なロボットのような人だったら? その人を「母」と思えと言われたら?
改めて「親子の関係ってそもそも何だっけ」と物事の本質まで考えてみたくなる。という意味で、綾瀬さんの役柄は強烈な「異化効果」を放っています。
「異化効果」とは演劇用語です。簡単に言えば、日常と非日常の壁を破る効力のこと。普段は当たり前と思ってスルーしたり問い直しもしない対象を、新鮮で見慣れない対象、思考を働かす対象へとガラリと転換させる効果のことを言います。そもそもはドイツの劇作家・ブレヒトが生み出した言葉だけに、異化効果はドラマツルギーと密接に関係しています。