【書評】『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』/藤井一至・著/光文社新書/920円+税
【評者】池内紀(ドイツ文学者・エッセイスト)
地味な学問である。土の研究、土そのもの、土の成り立ちに始まる基礎研究。そこから「100億人を養う土壌」を見つけ出すことはできないか。
はじめて知ったのだが、地球は12種類の土から成り立っているという。泥炭土、ポドゾル、チェルノーゼム(黒土)、永久凍土、黒ぼく土……スコップ片手に、その一つ一つを地球上にたずねあるく。簡単なようだが、スコップを機内に持ちこむことからして大変だ。日本人が何やら掘っているとわかると、地元がほっておかない。警察が目を光らせている。
「タイに寄り道して未熟土に詳しくはなったが、まだ12の土壌のうち、四つしか見ていない」
旅はつづくのだ。研究費は雀の涙ほどで、それもとだえがち。「ポドゾルとは、ロシア語の『灰のような土』を意味し、ロシアの農民が耕起しようと地面に鍬を入れると、灰のように白い砂が出てきたことに由来している」
土は風土、また生活と深く結びついている。森林をはじめとする自然界の真の盟主なのだが、人間の足下にあって、いつも忘れられる。乾燥、酸性雨、腐植、溶解、たえず性質を変えていく。