被災者を見舞う時も、戦没者を慰霊する旅でも、今上陛下の傍らには常に美智子皇后がいる。折々に発せられた、そのお言葉の意味を皇室ジャーナリストの山下晋司氏が読み解く。
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《この世に悲しみを負って生きている人がどれ程多く、その人たちにとり、死者は別れた後も長く共に生きる人々であることを、改めて深く考えさせられた1年でした》(平成27年お誕生日)
皇后陛下が81歳のお誕生日を迎えられたときに国民に向けられた、このお言葉はいまでも心に残っています。戦後70年にあたるこの年、皇后陛下は天皇陛下と共にパラオ・ペリリュー島を戦没者慰霊のために訪問されました。同年に起きた茨城県常総市の豪雨災害や、発生から4年経った東日本大震災にも触れつつ、戦争や災害の犠牲者及びその遺族を念頭に、こう語られたのです。
一般に人が亡くなると、遺族へのお悔やみは「故人は天国から見守られていることでしょう」などと励ます言葉を使うものです。
ところが皇后陛下は“死者”を“人々”と表現された。魂でも御霊でもなく、心の中に生きている人々。確かに、悲しみを背負う遺族の心の中では、死者は共に歩む人々のように感じます。死者は過去ではなく、一緒に生きる存在なのだ──皇后陛下ご自身も、そんな遺族の気持ちに寄り添いたい、という意味を込められたのではないでしょうか。
このお言葉には、慈しみとともに文学的表現の世界を感じました。まさに究極の慰霊の気持ちを表されたと思います。
【PROFILE】やました・しんじ●1956年大阪府生まれ。関西大学卒業。23年間の宮内庁勤務の後、皇室ジャーナリストとして『皇室手帖』の編集長などを務める。BSジャパン『皇室の窓スペシャル』の監修を担当。著書に『いま知っておきたい天皇と皇室』(河出書房新社)、監修書に『美智子さま100の言葉』『美智子さま 永遠に語り継ぎたい慈愛の言葉』(宝島社)など。
●取材・構成/祓川学
※SAPIO2018年9・10月号