名古屋駅のコンコースを、しっかりとした足取りで歩く白髪痩身の老紳士。その横にぴったりと寄り添う女性は、黒のタイトスカートにヒョウ柄のピンヒールが目を引く。女性は時折老紳士の腕に触れ、耳元に顔を近づけて何か囁く。2人はそのまま、駅の外に用意された車に乗り込んだ──。
戦国時代の茶人・千利休の流れを汲む茶道の三流派「表千家」「裏千家」「武者小路千家」は「三千家」と呼ばれる。その中で最大規模は、約10万人の会員を抱え、茶道人口の半分を占めるといわれる裏千家だ。
老紳士は、その裏千家で第15代家元を務めた千玄室氏(95)。2002年に長男・千宗室氏(62)に家元の座を譲ってからは、「大宗匠」を名乗り、茶道文化の発展のため活動している。
女性は玄室氏の秘書を務める佐藤則子さん(仮名)。60代前半の彼女は、玄室氏の国内外での様々な活動に付き従っている。
「もともと、佐藤さんの父親が関東圏のお寺の住職で、幼少からお茶に親しんでいた。現在は独身で裏千家の支部の幹部になっていくなかで、献茶会などを通じて玄室氏と顔を合わせるようになった」(裏千家関係者)
玄室氏は1999年に妻を亡くした。それから3年ほど経った頃に、佐藤さんが秘書役に任命されたという。
「玄室氏の自宅は京都にあり、裏千家の“本部”も京都です。佐藤さんは、普段は東京支部勤務ですが、講演などで玄室氏が出張する際には、ほぼ同行する」(同前)
玄室氏は、“茶道外交”と名付けて、世界の要人と交流を重ねてきた。家元を譲ってからも、日本・国連親善大使など、国際活動は多い。