今上陛下は平成を通じて何を国民に伝えたかったのか。文芸評論家の富岡幸一郎氏が30年間のお言葉を振り返り、そこに込められた「伝統の継承者」としての覚悟を読み解く。
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天皇の「言葉」をひもといていくとき、そこに大きな特色があるのがここからも窺える。それは言葉が時間を孕み、空間の現前を超えて、永い「時」の流れにつねに関わっていることだ。今ここで起こっていることを深く知り理解するためには、空間のなかにあって同時に、時間の聖性に触れなければならない。
考えてみれば平成の三十年間とは、空間が拡張し肥大化していくなかで、時間の感覚が失われていった時代であった。IT革命によって情報化社会は飛躍的な発展をとげた。インターネットによって地球の裏側にいる人間と一瞬のうちにコミュニケーションが取れるようになり、まさに空間の地球化が現出した。この空間の近さにたいして、時間という観念が希薄化する。しかし、「時」の感覚の喪失こそは、実は現代世界における人間最大の危機であり、魂の飢渇をもたらしているのではないか。
宗教学者のエリアーデは、「『象徴』は直接の経験の平面では明らかではない実在の様相、世界の構造を示す力を持っている」という。この世界には人智を超えたものがある。その超越的な感覚を大切にするという意味で〈象徴〉は物事の根源性を持つということだろう。国民の安寧を祈る天皇の「言葉」の力の源はここにあるといってよい。