在位わずか4年弱、残忍で淫蕩な独裁者として語り継がれる第3代ローマ皇帝カリギュラをモデルにした米伊合作映画『カリギュラ』(1980年)は、過激な内容のため一部地域で公開禁止となったが、禁じられたことでかえって注目を集めた。この出来事から、禁止されるほどやってみたくなる心理現象を「カリギュラ効果」と呼ぶようになった。だが、お笑いやバラエティでは「押すな」と言われたら「押せ」という合図のはずだ。ダメと言われるほど魅力的にうつる事象の究極を求めたAmazonプライム・ビデオの番組『今田×東野のカリギュラ』について、イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、ベテラン芸人、東野幸治にとって禁じられた領域について考えた。
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8月31日、Amazonプライム・ビデオで『今田×東野のカリギュラ』シーズン2が配信された。タイトルから分かるように、今田耕司と東野幸治が司会を務める。番組のテーマは”禁止されたらやりたくなる”。地上波放送でコンプライアンス的に難しい企画が展開される。
放送内容に一貫性はない、とどのつまり毎回ヤバいことにチャレンジする。そのヤバさの毛色が毎回異なる点が『カリギュラ』の魅力だ。暴力、ドッキリ、火薬、エロ、ドキュメンタリーとなんでもござれ。今田と東野のユニット名はWコージ、二つ名はゴシップ兄弟。名は体を表すように『週刊実話』の動画版とも例えられるコンテンツを送り出している。
一貫性はないが、シリーズ企画も存在する『カリギュラ』。そのなかでシーズン1、シーズン2ともに栄えある初回配信の名誉を授かったのが「東野、〇〇を狩る」。かねてから「狩猟をしてみたい」という願望を持っていた東野がプロから狩猟のいろはを学んでいくシリーズだ。シーズン1のVol.1で教えを受けたのがサバイバル登山家の服部文祥。東野は服部の「自らが自然の一部となり、生きるために生き物を狩る、畏敬の念と共にその命を食べる」という生き方に惚れ込んだという。
狩りの事前準備のため、東野がまず訪れたのが服部の自宅。道すがらの急坂をいじりつつ、自宅へと向かう。そこで東野は鹿を狩って、さばき、食したいという旨を服部に伝える。ここまでは健やかなノリなのだが、山に行く際の非常食という実践的な話となった途端、画面は生々しくなる。
「北大路魯山人が食用よりもこっちの方が美味いと言ってる」と服部が持ってきたのが、バケツにはいったヒキガエル。これを燻製にし、山の非常食にするという。
東野は「ヤバイな……」というが「これができなきゃ鹿なんて解体できないっしょ」と服部に促される。
服部は生きたヒキガエルの足を掴んで、壁に打ち付ける。気絶した状態のカエルを仰向けにし、腹を裂き、皮を剥いでいく。肉が露呈したカエルの胸の軟骨部分を切り、内臓を水で洗い流す。
その模様を見て、東野は顔を青くし「フーッ」と息を漏らす。テレビならばモザイクが目一杯はいるだろう、よって東野の気持ちを共感することはできない。
しかし、『カリギュラ』はモザイクが一切ない。元気だったヒキガエルが肉となっていく行程がまんま映される。視聴者は東野と同じ狼狽を体感できるのだ。
このシリーズは、撮影現場の情報量とモニタから見える情報量の差を少なくすることにこだわったといえる。加工がないゆえに、東野が触れ合った“狩り”という生々しい体験を追体験することができる。
そして、舞台は狩猟をする山へと移る。映像は生々しさを強めていく。