いま日本の「保守」と「リベラル」はどのような状況に置かれているのか。『言ってはいけない』(新潮新書)、『朝日ぎらい』(朝日新書)などの著書がある作家・橘玲氏と、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)などの著書があるネットニュース編集者の中川淳一郎氏が語り合った。(短期集中連載・第1回)
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中川:従来、橘さんはリベラル的スタンスを明確にしていましたが、『朝日ぎらい』というタイトルの本を出しただけで、反・朝日新聞派のネトウヨっぽい人から拍手喝采状態になりました。ただ、同書に「なぜ朝日新聞が嫌われるのか」について言及している部分はそれ程多くはなく、基本的には思想がなぜ分かれ、どう分断が発生していくのか、といったことに言及した本という認識をしています。
橘:「朝日新聞はなぜこんなに嫌われるのか?」という疑問が最初にあって『朝日ぎらい』というタイトルをつけたわけですが、おっしゃるように、「なぜ日本だけでなく世界じゅうが右と左に分断されるのか?」という話につながっていきます。たしかに、タイトルが過剰反応された面はあります。
中川:こんなタイトルの本を書いたらネットでは途端にリベラル風の人々、まぁ、本当は単なる糾弾が大好きな人々からネトウヨ認定されちゃうと思うんですよ。それが何かモヤモヤしたんですよね。だって別に橘さんはネトウヨの味方でもなんでもないじゃないですか。
橘:じつはこれは両極端で、朝日新書から出ているのだから、「朝日ぎらい」な右派を批判する(朝日新聞を擁護する)本にちがいないと、発売直後は読んでもいない、というか目次すら見ないひとたちからずいぶんバッシングされました。雰囲気が変わったのはしばらくして、実際に読んだひとが「“安倍政権はリベラル”と指摘しているし、リベラルを批判してるじゃないか」というようになってからですね。
朝日的なリベラル(戦後民主主義)の欺瞞やダブルスタンダ-ドを批判するのがこの本のひとつのテーマなのですが、それを他の出版社から出せば、あっという間に「橘玲がネトウヨになった」といわれるのは最初からわかっていました。実際、SNSの反応でも、「タイトルを見たときは“いよいよ橘玲もネトウヨ商売か?”と思ったけど、版元が朝日新書だからそうでもないのか」というコメントがいくつもありましたから。朝日を批判するからこそ、この本を朝日新書以外から出すつもりはなかったですね。
中川:ただ、最近ではそうした対応も「防波堤」にはならなくなってきているんじゃないかという気がしています。最近は、朝日新聞が両論併記をしたと言うだけで、リベラルから怒られる時代になっちゃってるんですよ。杉田水脈氏の「LGBTは生産性がない」という暴論とか、東京医科大学が入試で女子受験生の点数を低くしていたとかの問題についてリベラルがデモを起こします。デモ自体は妥当な主張をしていると思うのですが、そのデモを取材した朝日新聞が、杉田氏の意見に一定の支持を示す識者のコメントとかも取るんですね、一応。すると、「朝日は両論併記をしやがってバカか」という反応が出て来る。