戦後の“皇室外交”でいまだ実現していないのが陛下の韓国訪問である。とくに来年退位される明仁天皇にとっては大きな心残りと思われる。以下は筆者(黒田勝弘)が、共同通信記者時代の先輩で陛下のご学友だった橋本明氏(昨年8月、死去)から、皇太子時代の話として聞いた裏話である。
陛下は歴史に関心が深いことで知られるが、日本の近現代史について「3つの過ちがある」とよく語っておられたという。3つとは「琉球処分」「韓国併合」「先の大戦」である。陛下がこれまで皇太子時代を含め、沖縄訪問や戦跡への慰霊訪問をくり返されてきた背景には、そうしたご心情があったという。
しかし韓国訪問だけは実現していない。代わりに韓国については間接的にそのお気持ちを示されている。代表例が2001年12月の誕生日記者会見。翌年の日韓共同開催サッカー・ワールドカップを前に語られた韓国に対する「ゆかり発言」である。日本の歴史書を引用されるかたちで、奈良時代の話として桓武天皇は古代・百済の王族と縁戚関係にあったことを紹介され、韓国との縁を語られている。
あるいは昨年、私的訪問として埼玉県の高麗神社をわざわざ訪問されたこともそうだ。高麗神社は古代・高句麗の王族が祭られていることで知られる。陛下は古代史における「日韓のゆかり」を借りて韓国への思いを表されているというわけだ。