【著者に訊け】久保寺健彦氏/『青少年のための小説入門』/集英社/1650円+税
小説家が物語を書く……。その過程もまた物語だった。久保寺健彦氏の実に7年ぶりの新作『青少年のための小説入門』の主人公は、中学入試で私立御三家に落ち、都内の公立に渋々通う〈入江一真〉、14歳。ある時、不良たちに強要され、近所の駄菓子屋〈たぐち〉で梅ジャム1個を盗んだ彼は、店主の孫で少年院帰りとの噂もある〈登さん〉に捕まる。
そして万引きをチャラにしてやるからと、半ば強制的に〈本の朗読〉を頼まれるのだ。当時20歳の登さんは実は文字の読み書きに難のある〈ディスレクシア〉にして、物語を生む天才でもあった。そこで一真に古今東西の名作を朗読させて要領を学び、作家になろうと考えたらしい。
こうして登がアイデア、一真が執筆を担当する覆面コンビ作家〈倉田健人〉が誕生、晴れてデビューも果たした。が、一真が当時を思い返しているのは彼が中年になり、本名で再デビューして4年目のこと。拙い文字で最新作の感想が綴られた葉書が届いた時、それを書いた登さんはもう死んでいたのだ──。
前作『ハロワ!』以降、実は氏には小説を全く書けなくなった時期がある。
「感覚的にはプロゴルファーが突然パットが入らなくなる、イップスに近い状態ですね。プロットを作るのですが、どうもやりたいことと違う気がするし、アイデア出しを一から始めてみても、百枚くらい書くと全く面白く思えないんです。そんな状態が4年続いて、ようやくです。学習障害のヤンキーと優等生が一緒に本を読むこの物語に『あ、いける!』と思えたのは」