重要文化財の屏風絵『名樹散椿(めいじゅちりつばき)』は、大正から昭和初期に活躍した日本画家・速水御舟(ぎょしゅう)の手によるもので、現在は山種美術館(東京・広尾)に収蔵されている。
その名画を表紙にした作家・葉室麟の時代小説『散り椿』が、岡田准一(37才)主演で映画化された(9月28日公開)。舞台は江戸中期。主人公の武士・新兵衛(岡田)は、病に倒れた妻(麻生久美子・40才)から、旧友でかつての恋敵・榊原(西島秀俊・47才)を助けてほしいという遺言を託される──。
「葉室さんは『名樹散椿』からインスピレーションを得て小説を書き上げたそうです。格闘技の素養がある岡田さんの殺陣は、三船敏郎さんや勝新太郎さんを超えるほどのスピードと評判です。カメラマン出身の木村大作監督(79才)による映像も美しい。基となった絵で描かれているような花びらを落とした椿の木の前で、岡田さんと西島さんが繰り広げる殺陣は芸術的ですらあります」(映画関係者)
その『名樹散椿』は、皇后美智子さまと数奇な縁で結ばれた名画でもあった。
画家・速水御舟の長女である速水彌生さんは、聖心女子学院出身の美智子さまの先輩にあたり、シスターとして長く聖職を務めた。同大学出身で、系列の各学校で教鞭をとり、母体であるカトリック聖心会の東洋管区長も歴任した人物だ。
「美智子さまの在学中、ひとまわりほど年上の速水さんは学長秘書をされており、その頃からご縁がありました。美智子さまのご卒業、ご結婚後も親交を深められ、美智子さまの誕生日には皇居に招かれる間柄でした」(皇室ジャーナリスト)
その交流は、速水さんが昨年、95才で他界するまで続いたという。美智子さまは『名樹散椿』を鑑賞されるため、山種美術館に足を運ばれたこともある。2009年10月のことだ。
「山種美術館が聖心女子大に程近い今の場所に移転した直後のことです。美智子さまは、『椿の花はぽとりと落ちるものなのに、この絵では山茶花(さざんか)のように一片ずつ散るのですね』と、興味深くご覧になっていました」(宮内庁関係者)
御舟がこの作品で描いたのは、京都の昆陽山地蔵院(俗称、椿寺)にあった樹齢約350年(当時)の「五色八重散り椿」。1本の木に白から紅までさまざまな色の花をつけ、花弁が一片一片散っていくという特徴がある。それを見抜かれた美智子さまの草木への造詣の深さには、関係者も驚いたという。