音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、瀧川鯉昇と柳家喬太郎が、10年前から続けている二人会についてお届けする。
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8月21日、池袋の東京芸術劇場プレイハウスで「瀧川鯉昇・柳家喬太郎二人会“古典こもり”」を観た。10年前から会場を替えて不定期に開催されている会で、これが13回目。
落語芸術協会所属の瀧川鯉昇は今年で芸歴45年になるベテランで、その独特なフラが魅力。実は端正な語り口で古典をきっちりと語る正攻法の演者でありつつ、時に破天荒なギャグを大胆に取り入れて噺を再構築して爆笑を呼ぶ。この日の鯉昇はその両面で楽しませてくれた。
まず1席目は『質屋庫』。三番蔵に化物が出るという噂を気に病んだ質屋の主人が番頭と出入りの熊五郎に寝ずの番で蔵を見張らせる噺だが、そこへ至るまでのやり取りが構成の大半を占め、丑三つ時に化物が出てからはアッと言う間にサゲに至る。この単調な噺を、鯉昇は登場人物それぞれを丹念に描いて飽きさせない。旦那が長々と語る「帯を質入れした長屋の女房のエピソード」に聴き入ってしまうのは語り口の心地好さ故。だからこそ「思えばあの質屋が恨めしい」でドッと笑いが起こる。
続いて喬太郎は『牡丹灯籠』の「お峰殺し」。伴蔵の浮気を知った女房おみねは諍いの中で「新三郎様は幽霊に取り殺されたと評判になったけど、それは違う。まだ息のあった新三郎様を殺したのはアンタじゃないか!」と驚愕の真実を語る。これは三遊亭圓朝の原作にはない台詞。この夫婦が幽霊から大金をもらった「お札はがし」にはそんな秘密があったという、大胆な新解釈だ。