「警察24時」と呼ばれる各テレビ局で放送される警察の活動に密着する人気番組では、粗暴犯や交通違反を追いかけるだけでなく、その時代に流行している犯罪の検挙へ至る道を放送している。視聴者は、どこか別世界の話だと受け取りがちだが、スマホとSNSでネットが身近になったことで、ごく普通の人たちが、いつかテレビで見たのとそっくりの場面に遭遇するケースが増えている。どちらかといえば優等生だったはずの息子が、特殊詐欺に巻き込まれた父親の告白から、日常の隣に潜む犯罪への道への警戒を呼びかける。
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「まさかという気持ち。タバコを吸ったこともないし、成績だって上位。誘われて軽い気持ちでやったんでしょうけど…。ショックで母親は寝込み、精神的な病気にもなりました。(子供を)あまり縛り付けたくはありませんが…正直それほど悪い家庭ではないと思っていた分、どうしていいかわからないというのが本音です」
絞り出すような小声で電話インタビューに答えてくれたのは、以前、息子が特殊詐欺事件、いわゆる「オレオレ詐欺」で検挙されたという渡辺勝さん(仮名・40代)だ。息子は現在、都内の通信制高校に通っているが、事件がきっかけで「家族がバラバラになった」と涙声で話す。
渡辺さんの息子・A君(当時16歳は)、関東某県の私立高校に通う、普通の高校生だった。進学コースに在籍し、運動部には所属せず、毎日夜9時近くまで学校で「特課」と呼ばれる授業を受け、その後に受験予備校に向かうこともあった。家族の仲はいたって普通、毎日曜日は家族そろって近所の焼き肉店や中華料理店でにぎやかに食事を摂った。唯一、息子がぼやいていたのは「お小遣いが足りない」ということ。
進学コース在籍者はアルバイトが原則禁止で、とにかく受験勉強が最優先された。中学時代の同級生など、地元の友人たちがアルバイトなどをして自由なカネがあるのに対し、息子は月に3000円の小遣いを何とかやりくりしていたのである。
「可能な限り家族が揃う時間を取ろうと努力してきたつもりです。 我が家は大金持ちではありませんし、私立校に通わせていたから、息子も小遣いが足りないとはぼやいても、事情は分かってくれていると思っていました。また、小遣いを上げすぎるのもよくないと考えていました。しかし、私たち親が思っている以上に、息子にとってカネが必要だったということでしょう。良かれと思ってやっていたことが裏目に出たのでしょうか」
夏休み明けの9月中旬、早朝。渡辺さんが起床し、玄関に新聞を取りに行こうとすると、玄関のガラス越しに黒い人影が無数に見えた。インターホンに応答すると、黒影の正体が刑事であることが分かった。なぜ我が家に? と事態がつかめず、刑事の口から出た言葉を聞いても、やはり何も理解できなかった。