スマホとSNSが普及したことで、口コミを偏重する不思議な風潮が生まれている。学生の就職活動についても同じような現象が起きていて、それを利用した裏バイトが学生インフルエンサーの間で広がっている。いまは2020年卒の学生たちがインターンシップなどに取り組み、来年春に始まる企業説明会やセミナーなどの情報を一学年上の先輩から得ている頃だろう。ライターの森鷹久氏が、企業セミナーに出席するサクラが増えた経緯と、サクラになったインフルエンサーたちの本音をレポートする。
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「とにかく人が集まりません。学歴フィルター云々と言っているのは、超一流企業と、そんな企業にエントリーする一流大の学生たち。私たちとしては、なりふり構わず学生を集めるしかないのです」
こう語るのは、東京都某区にある中堅商社の採用担当者・M氏。昨年、一昨年と十数名の新卒採用枠を設けたが、実際に入社したのは10名にも満たなかった。採用担当者として上司からは「集め方が悪いのではないか」と叱責され、あらゆる就職サイトの担当者とも協議を重ねてきたが、インターン応募者も、採用試験応募者も一向に伸びない。「人不足」を肌で実感せざるを得ない状況の中で、とある広告代理店から持ち掛けられた“秘策”に、M氏は茫然とした。
「そこまでしないと人は来ないのかと…。あまり気は進みませんでしたが、背に腹は代えられずやってみると、確かに人が来たのです。私としては本当にうれしかったが、正しいことなのかと問われると、まあ…」(M氏)
その“秘策”とは、会社説明会などにサクラを雇うという禁断の手法だった。
サクラ達は、ただ頭数をそろえるだけでは意味がない。ネット社会で「インフルエンサー」とも呼ばれる、モデルや芸能活動をしたことがある人、ブロガーやサークルの代表として活躍する学生たちにサクラになってもらうのだ。彼らは、SNSなどで多くのフォロワーを持ち影響力がある。その口コミによって説明会に人を呼び込む、という寸法だったというのだが…。
「いくら費用がかかったか…多くは言えませんが、以前よりだいぶかかったとだけ…。でも、彼らの影響力は本当にすごい。一人のインフルエンサーが弊社についてのポジティブな情報をSNSで発信し、会社説明会に行くと投稿すると、そこには”私も行く、俺も行く”との返信が相次ぎました。そしてそのうちのほぼ半数以上が、実際に説明会に参加した。すごいことです」(Mさん)
当初、Mさんはこのやり方について大いに疑問を抱いていたが、実際にたくさんの学生が会社に来て、説明会に参加した後には「きっかけは何でもいい」と考えるようになった。インフルエンサーは単なるサクラではなく、人を呼び込むための「コンサルタント」とも言えるのではないか、筆者にそう思いを吐露するまでになったのだ。