最近では、年賀状以外でハガキを使う機会はほとんどないだろう。その年賀状もメールやSNSに代わりつつある。ところが、特殊詐欺の世界では「ハガキ」がまだまだ現役だ。実に古典的な方法だが、なぜ今もハガキを使う特殊詐欺が続いているのか、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「法務省から訴訟がどうのこうのってハガキが届いたとよ…。あんたどういうことかわかるね?」
筆者の友人であるXに、九州の実家に住む母親から電話がかかってきたのは今年の九月上旬の事だった。友人もまた筆者と同じくメディア・報道関係の仕事をしている事もあり、それがいわゆる「特殊詐欺」であることを一発で見抜き助言をしたことで、母親が被害にあうことはなかった。
「法務省」を名乗り、財産の差し押さえを行う等の、半ば脅し的な内容が書かれたはがきや封書が送り付けられているという事案は、全国各地で発生している。昨年から報告が目立っているため、テレビや新聞といった多くのメディアが警鐘を鳴らしてきたから、ピンとくる読者も少なくないだろう。報道されると一時的にハガキなどの送りつけは止まるが、またすぐに送り付けが頻発し、メディアが報じる…といったいたちごっこ状態になっているのが実情だ。
蔓延しているこの「特殊詐欺」だが、送りつけられているハガキを見ると、その何もかもが極めてお粗末で、はっきり言えば「騙されてしまう人がいるのか」というほど、雑な“シゴト”であることをうかがわせる。
「法務省なりすましハガキは、メディアも何度か取り上げてきました。書かれている番号に電話をかけてもつながらないとか、記載されている住所を調べても住所が存在しない、そもそも法務省内には存在しない部署名が書かれていたり、少し調べればわかる”雑な詐欺”なんですよ。一年半くらい前にこうした事案を把握し、少し取材をしましたが被害者は見つかりませんでした。まあこんなものに引っかかる人間はそうそういない、そう思っていたのですが…」
こう話すのは、地方ブロック紙の警察担当記者。特殊詐欺はありとあらゆる形で発生しており「法務省なりすましハガキ」の件についても、当局ではいち早く把握していた。しかし、劇場型、携帯乗っ取り型などの手の込んだ方法が次々に産み出されていく中で、このような雑で単純な手法に騙される人はいないだろうから、放っておいても大丈夫なのではないか、そう感じていたのだという。しかし、それから半年ほどが経過したとき、同事案における被害者が続出していることを、取材で知った。
「まだ騙されている人がいるとはと、愕然としました。これだけ当局やメディアが警鐘を鳴らしてもダメなのかと。どうしようもない無力感に襲われます」(ブロック紙記者)
さて、このような“雑な手法”で詐欺行為を働こうとしている輩は、いったいどんな者たちなのか。「法務省なりすましハガキ」を送り付けたとして今年九月、東京都内の男が逮捕された。このグループとは関わりがないが、もともと半グレのグループに属していたというある男性は、特殊詐欺は「割が良いシゴト」といって憚らない。
「ハガキの送りつけは古典的で、詐欺師ですら“騙される人は多くない”と考えています。でも下手な鉄砲も数打てば当たるんです。電話を使った、いわゆるオレオレ詐欺は本当に難しくなった。ハガキや封書なら一通数十円。釣りと一緒で、餌付けた針をたくさん垂らしておいて、あとは待つだけだから、喋りのテクニックがなくてもできる。こんなハガキに騙されて電話するくらいだから、相手だって言いくるめやすい人でしょう。“オレオレ(詐欺)”の時みたいな会話テクニックもいらないでしょう。1000通も送れば数件のリターンはあるでしょうし、10万でも20万でも取れれば大儲けでしょう」(半グレ業界に詳しい男性)