「10年前と比べればスピードは半分、20~30年前の3分の1ほどになったと言ってもいい。認知症になっても、軽度や中等度でいる時期が2倍、3倍と延びているので、早い段階から医療が介入すれば高度まで進行する人は減ってきています」
認知症診療の第一人者、東京慈恵会医科大学教授の繁田雅弘さんは認知症の進行についてこう語る。昔からある認知症の進行速度が緩やかになってきた要因の1つは“ケア”だという。
「認知症は、症状そのものというより、症状によって本人が不安や混乱に陥り、失敗を繰り返して自信を喪失するところに重要なポイントがあります。ここで失敗を責められたり、できないことを無理強いされたり、また“もう何もできないだろう”と制限されたりすることが大きなストレスになる。
それがもの忘れや生活上の失敗などの中核症状だけでなく、暴言や興奮、抑うつ、徘徊など、その人の周りの環境や人間関係などに関連して起こる行動・心理症状(BPSD)の悪化を進めることにもなるのです。
このことが近年の研究で明らかになり、医療者や介護職の意識が変わりました。家族にもケアの重要性が伝えられ、認知症の人を取り巻く環境が格段によくなってきました。またできるだけ早く医療機関にかかる意識が高まったことで、糖尿病など認知症の進行を早めてしまうほかの病気の治療が進んだことも、大きな意味がありますね」(繁田さん・以下同)
認知症でも普通に暮らせる期間が長くなってきた背景に、“ケア”があるというのは意味深い。もちろん専門的なケアもあるだろうが、やはり家族の接し方は重要なのだ。
「まず家族は、認知症について正しく知っておくこと。今のところ認知症を予防したり、進行を止めたりする方法はありません。もの忘れや失敗をつい指摘してしまうのは、目につく症状を何とか改善したい気持ちがあると思います。でもそれはあまり意味がなく、むしろ絶望させることになります。
考えてみてください。年を重ねた親が、もの忘れや生活上でできないことが増えてきたとき、何もかも覚えている、何でも的確にできることが重要なのか。それとも本人らしい性格、情緒、ユーモアや感動などが大切か。