5年前、密漁アワビの売買を取材するため、築地市場の仲卸業者にバイトとして潜入した際、密漁品の横行する現場を目撃した。
築地での仕事中、知り合いのヤクザとばったり会い、「密漁品はないか」と訊ねたところ、とある業者を紹介された。密漁アワビはそこで堂々と売られていた。
「もちろん仕入れ値は買い叩く。キロ8000円が相場なら、密漁品の場合500円から3000円。仕入れ先は漁師が多い。不意の現金収入が必要になって、自分たちがいずれ獲るはずの(禁漁期間に密漁された)アワビを売りに来る」
その業者は、実際に「千葉県産」と偽装した静岡県産の密漁アワビを私に見せた。密漁と産地偽装を駆使することで、おおっぴらに密漁アワビを店頭販売するのだ。
働いていた仲卸業者の役員も、「(築地で密漁アワビは)売られている」と語る。いったい日本では、どのくらいのアワビが密漁されているのか。
平成15年7月の『養殖』に掲載された多屋勝雄氏(水産学博士)の調査では、全国のアワビ流通量から漁獲量と輸入量をマイナスし、他の要素を考え合わせて密漁の規模を割り出している。それによると、日本で取引されている45%、およそ906トンが密漁アワビの計算になる。我々はアワビを食べる時、2回に1度は暴力団に金を落としている。市場に流通する半分が密漁アワビ、言い方を変えれば盗品というのは異常な状態という他ない。