音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、上方落語の笑福亭たまの、ブレイクの兆しについてお届けする。
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上方の若手爆笑派、笑福亭たま。早くから積極的に東京に進出、パワフルな芸風で人気だ。8月23日、彼が隔月開催する「笑福亭たま日本橋劇場独演会」に出掛けた。前回は「芸歴20周年」をサブタイトルに掲げていたが、今回は「花形演芸会大賞受賞記念」としてある。
たまの1席目は『近日息子』。三代目桂三木助が東京に持ってきた噺だが、もちろん元は上方落語。バカ息子が父親の葬式の準備を始めたのを見て町内の連中があれこれ噂をする場面での「いつも言い間違いをする男」のくだりは東京版にはないが、この脱線の可笑しさにこそ上方版『近日息子』の真髄がある。たまはここを重点的に描き、エピソードを膨らませて爆笑を呼ぶ。
この日のゲストは落語芸術協会から2人。まずは瀧川鯉朝が『ペコとマリアとゆかいな仲間』。不二家のペコちゃん人形が喋る新作落語『街角のあの娘』の続編だ。
続いてたまが演じたのは『土橋萬歳』。上方の大ネタだが、あまり聴けない珍しい演目だ。1991年の桂米朝の高座を収録したDVDの解説には「今は米朝しかやらない」と書かれており、その米朝にしても「滅多にやらない古風な噺」と言っていた。
遊びが過ぎて離れに閉じ込められた大店の若旦那が、見張りの丁稚を言いくるめて逃げ出した。丁稚から行先を聞き出した番頭、若旦那を連れ戻そうとするが聞く耳を持たず、蹴倒されて追い返されてしまう。
ひとしきり宴会に興じた若旦那が「河岸を変えよう」と芸妓・幇間を引き連れて出たところを追い剥ぎが襲う。追い剥ぎの正体は番頭で、なんとか諌めようという苦肉の策だったがそれも効かず、遂に番頭が若旦那を刺し殺すという事態に……。