1957年に誕生した日本の刑事ドラマの歴史の中で、女性警官はその役割をさまざまに変えてきた。しかし1990年代、“刑事ドラマ冬の時代”が到来する。1993年9月限りで、『太陽にほえろ!』から21年続いた日本テレビの金曜20時枠、『西部警察』から14年続いたテレビ朝日の日曜20時枠が終了。ゴールデン帯には『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)の1本のみになってしまった。
だが、ピンチはチャンスとばかりに、その間隙に新たな女性刑事が描かれた。1992年、鎌田敏夫脚本の『眠れない夜をかぞえて』(TBS系)では、31歳の田中美佐子が連続ドラマ初主演でエリート刑事・石島倫子役を演じた。映画監督の樋口尚文氏がいう。
「従来の様式から離れ、シリアスな人間ドラマを描いた名作です。倫子は中学1年の時に教師にレイプされた体験や淫らな母を見て育ったことから、男性不信に陥っていた。こうした負の背景を持って警察官を志願するという設定は新鮮でした」(樋口氏)
女性刑事の内面が描かれた一作といえば、1995年の『沙粧妙子』(フジテレビ系)も挙げられる。浅野温子演じる沙粧妙子は京都大学医学部精神医学科卒業後、警視庁科学捜査研究所に就職した犯罪心理学のエキスパートだった。
「妙子の恋人である梶浦(升毅)が、妙子の親友である京子(冴木かおり)を殺害。妙子は精神安定剤を飲んで過ごしていた。女性刑事の深い悩みを表現した作品でした。奇しくも、この年は地下鉄サリン事件などで社会情勢も不安定でした」(太田氏)
1997年の『踊る大捜査線』(フジテレビ系)は心理描写の流れを汲んだ上に、往年の女性刑事の設定も取り込んだ。