【書評】『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』/エドワード・ルトワック著、奥山真司訳/文春新書/800円+税
【評者】山内昌之(武蔵野大学特任教授)
日本人には官民あげて戦略がないとよく言われる。戦略家のルトワックは、日本人が戦略下手どころか、すこぶる高度な「戦略文化」を持っていると反論する。何よりも、この四百年を見ただけでも日本人は、つねに「完全な戦略的システム」を作り上げてきたというのだ。システムが危機に直面するたびに、包括的な新システムに更新してきた。
ルトワックは、徳川家康を「最高レベルの戦略家」と高く評価する。江戸幕府をつくった家康は、内戦を完全に封じ込め完璧な「ガン・コントロール」を作り上げて、敵を消失させる最高度の同盟戦略を江戸システムとして成功させた。
この「日本1.0」ともいうべきシステムは、その後三百年近くも有効であった。明治の「日本2.0」、一九四五年以降の「日本3.0」を通して、日本はその時に最適のシステムと同盟を選びながら国を維持発展させてきた。
しかし、成功者の日本人にも目の前の大きな危機に実践的に対応すべきシステムの創出が迫られている。北朝鮮による核の脅威は予測不能の武力であり抑止の論理が効かない点で先行きが分からない。
日本は自ら対処すべき方策を見出すしかない新たな局面に入ったというのが著者の見立てである。同盟で他者だけに頼り過ぎ自らの負担や犠牲を考えてこなかった日本国民の責任も大きい。