美しい造作は俳優として有利な条件のひとつだが、それですべてがまかなえるわけでは当然ない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、秋の夜長を彩る2つの作品とその演者の出来について指摘する。
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「どアップに4分間耐えられる美貌」が話題になった北川景子さん。バラエティ番組で「瞬きを一度もしない」挑戦をし、顔が大写しになったまま4分が経過。まったく瞬きしない根性も凄いけれど、それ以上に「大写しで見続けること」が苦にならないほどの北川さんの美しさに、視聴者は改めてびっくりさせられました。
そう、「北川景子」と聞けば、まずは「美人」というワードが来ます。しかし、その「美しい」印象がしだいに後方へと退き、かわりに「ネット記者」としてのリアルな姿がぐいぐいと前面に出てくるからこのドラマは面白い。
NHK総合土曜ドラマ『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(20日/27日午後9時)で、北川さんは新聞社からネットメディアに出向中の女性記者・東雲樹を演じています。まず注目点は、北川さんの役者としての集中力、そして自分を捨てて別の者に成り切る演技力でしょう。
「つぶやきは、感情を食べて怪物になる。」、それがドラマのキャッチコピー。物語は、インスタント食品に入った青虫がSNSで拡散されるところから始まります。いったい誰が、何の目的で発信したのか。裏が取れない情報に、感情的に反応し瞬時に拡散させていく人々。つぶやきは思わぬ方向へと広がり、出来事を作り出していく。釈然としない思いを抱き、真実を追い求める東雲記者の芯の強さ、仕事にかけるプライド──。
身のこなし方、視線の動かし方、しぐさ、服装から言葉遣いまで。北川さん演じる「ネット記者」像は、なかなかリアリティに溢れています。そしてネットニュースに携わる業界人しかこだわらないような、PV(ページビュー)だのCMS(コンテンツ管理システム)だの、細部のリアルまで作り込み、手を抜かず忠実に描き出していく。
それもそのはず。ハフィントンポスト日本版の記者が「ネットメディア考証」に加わり、ニュース記者にもヒアリングした上で制作されたそう。ちなみに脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』『獣になれない私たち』と話題作連発中の野木亜紀子さんによるオリジナル。
まさしくリアリティ徹底追求の秀作ドラマですが、もう一点気になるのが、実はサブタイトル。ちょっと見過ごされがちですが、タイトルに続いてこんな文字があります。
「あるいはどこか遠くの戦争の話」
いったいどんな意味が込められているのか。“フェイクニュース”という言葉は、当初はメディアサイドが虚構のニュースを報道することを指しましたが、だんだんにその意味が拡大し「事実ではない、虚偽・デタラメな内容の情報・報道の総称」(IT用語辞典 Weblio辞書)。そんな現状の中で、「あるいはどこか遠くの戦争の話」とは、いったい何を指し示しているのか。