《虐待が疑われる傷やあざがあったり、暴力が繰り返されていることから、施設入所の措置が必要であり、保護者の同意がとれないのであれば、家庭裁判所の承認を得て行う保護者の同意なしの施設入所等の措置のための手続を検討すべきとの提案があった》
《しかし、その際児童相談所は医療関係者や弁護士等の専門家に相談せず、子供自身に分離の意思があったこともリスクとして十分に捉えず、発生原因や受傷時期が特定できないことを理由に申し立てしなかった》
引き継ぎについては、
《ケース記録は、膨大である一方で、けがの写真は送付されていなかった》
《緊急性・重要度を踏まえた引き継ぎが行われなかった》
と指摘した。カウンセラーで、元児相職員の山脇由貴子さんが言う。
「報告書が指摘するとおり、2度目の一時保護のときと引き継ぎのとき、結愛ちゃんを救えるチャンスは確実にあった。本来ならば1度目の保護が解除されたあと家に帰って、また虐待されてしまったら、その時点ですぐに親子を引き離さなければ危険です。2度も一時保護になっていることを考えれば、再犯も充分に考えられたはずです。また、引き継ぎ時に深刻度がうまく伝わっていなかった証拠に、品川の児相職員は結愛ちゃんに一度も面会していません」
報告書によれば2018年2月、児相職員は家庭訪問を実施したものの、優里から結愛ちゃんとの対面を拒否されている。
「こういった場合、児相は踏み込むことができる権限も持っているはずですが、それをしなかった。引き継ぎ情報が欠落していたゆえ、そこまでする必要はないと判断してしまったのでしょう」(山脇さん)
踏み込めなかった理由の1つとして、日本の児相がかかえる問題点がある。
「アメリカの場合は、親に対して『子供に近づいてはいけない』と親から子供を強制的に引き離すことができるが、日本では職員が親との信頼関係を築くことを優先するゆえ、子供の安全が後回しにされてしまう傾向にあります」(山脇さん)
人員問題も大きい。
「児相の職員は自治体の公務員であり、虐待の専門機関ではありません。ほとんどの職員が、配属を希望せずに新卒で入ってきて、わずか1か月の研修を受けて配属される。そのうえ、2、3年で異動してしまうため、ベテランが育ちにくい。虐待に対応できるスキルもやる気も到底あるとはとても言えない人が担当している児相も少なくない。今回の児相の対応に問題があったのは確かだが、もはや児相だけで虐待を止められるとは到底思えない」(山脇さん)
※女性セブン2018年11月8日号