今年はスポーツ界から芸能界、一般企業にいたるまで、パワハラの内部告発が相次いだ。もちろん、理不尽な指導や暴力といった圧力で弱い立場の人間を一方的に追い詰める悪質パワハラは厳しく糾弾されて然るべきだが、「加害者の弁明にももっと耳を傾けるべき」と指摘するのは、同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。
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日大アメフト部の部員による悪質タックルの問題を皮切りに、レスリング、ボクシング、体操、重量挙げ……。この春以降、アマチュア・スポーツの世界でパワハラ告発の連鎖が止まらない。
しかも、それはアマ・スポーツ界の外にも広がりを見せている。大相撲の世界では、元貴乃花親方が弟子への暴行事件の扱いをめぐって相撲協会を告発したことに関し、事実がなかったと認めるように協会側から圧力を受けたとマスコミに語った。また芸能界では、ご当地アイドルの少女が自殺した背景にパワハラなどがあったとして、所属会社が遺族から損害賠償を求め提訴された。
さらに視野を広げるなら、近年は小学校から大学にいたるまで教師による児童、生徒、学生へのパワハラが次々と発覚し、加害者が処分を受ける事態が続いている。
いうまでもなく人権侵害はけっして許されないし、それが不幸な結果を招いたとしたら加害者は厳しく責任を問われなければならない。また、不当な圧力や強制によって相手を従わせようという、やり方そのものが誤っているというべきだろう。
◆一方的な断罪に感じる理不尽さ
しかし、パワハラや圧力の「加害者」を告発し、一方的に断罪するだけでよいのかという疑問もわく。パワハラや圧力だと指摘されたケースのなかには、指導者・教師の熱意や温情がアダになったような例もある。
たとえば親しみを込めた話し方でも、言葉だけを取り出せば「暴言」ととられる場合があるし、スポーツの練習で危険なプレーを注意したり、気合いを入れるために大声を出したりしても、はたから見たらパワハラのように映る。大学では、このままだと卒業できない学生に、研究の課題を与えたのがハラスメントではないかと指摘された例もあった。
指摘された側に何らかの落ち度があったことは否定できないが、問題を起こした指導者や教師のなかには熱意があって親切で、周囲の評判もよい人が少なくない。逆にいえば熱意に乏しく、最低限の指導だけをしている人や、慇懃無礼で要領だけよい人は問題を起こすこともない。そこに理不尽なものを感じてしまう。