新潟の貧農から総理大臣へと成り上がった田中角栄は、やがてロッキード事件などのスキャンダルに塗れ波瀾万丈の人生を終えた(1993年没、75歳)。その生涯は近年の“再評価ブーム”の中で様々な視点から伝えられてきたが、誰もが知るその歴史に「空白の2年間」がある。徴兵で満州に動員されていた時期について、角栄は生前ほとんど語らなかったという。当時の秘話が、ある写真とともに明らかになる。
◆「満州の写真を持っている」
『戦場の田中角栄』(馬弓良彦著、毎日ワンズ刊)が異色のベストセラーとなっている。“戦場”と“田中角栄”という奇妙な取り合わせだが、比喩で“戦場”という言葉を使っているのではない。あまり知られていないが、角栄は徴兵で出征し、騎兵部隊の二等兵として満州に赴任していた。同書にはその時代の角栄が描かれている。
出版した毎日ワンズ社長の松藤竹二郎氏はこう語る。
「書いたのは長く毎日新聞で角栄番を務めていた記者ですが、すでに鬼籍に入っている。実は7年前に単行本として刊行したものを、角栄の生誕100年に合わせて新書として再発刊したんです。発売1か月あまりで第7刷まで増刷となり、売れ行きに驚いています。戦場での角栄のエピソードはこれまでほとんど知られてこなかっただけに、新鮮だったのかもしれません」
ヒットの兆候を感じ、新聞各紙に大きな広告を掲載した。すると、しばらくして、一人の女性から編集部に電話がかかってきた。