【著者に訊け】月村了衛氏/『東京輪舞』/小学館/1800円+税
「公安から見た昭和史」。たったそれだけともいえる着想を圧巻の物語に紡ぐ稀代のストーリーテラー、月村了衛氏の『東京輪舞』が、ついに単行本化された。
主人公は昭和50年、警視庁公安部外事第一課に配属された〈砂田修作〉。物語は巡査時代、田中邸を警備中に負傷した彼を角栄自らが病院に見舞う場面で始まり、末端の警官にも礼を欠かさなかった平民宰相がやがて政界を追われ、砂田もまた時代に翻弄されてゆく様を、全7章の歴史巨編に描く。
ロッキード、東芝COCOM違反、地下鉄サリン等、本作では昭和~平成に至る現実の事件を扱い、その間、内外情勢は劇的に変化した。が、最も変わったのは政財界も含めた人のあり方かもしれず、かつて角栄の大きさや戦後の闇の深さに震撼した砂田は思う。〈アメリカも日本も情けないほどの小物ばかりだ〉〈平成などなかった〉と。
「昭和史は本当に大変でした。今回は通常の長編5、6冊相当のネタをつぎ込みました。自分史上、最もコスパが悪く、その分、思い入れ深い作品です(笑い)」
『機龍警察』シリーズ等で知られる著者は稀代の映画通、エンタメ通でもあり、内外のスパイ小説にも精通する。が、ここまで現代史の深部に実名で迫る小説はなかなか例がなく、取材や資料調べには膨大な時間と手間を要したという。