紺碧の海に囲まれ、手つかずの大自然が残る奄美大島。古来、日本防衛の要衝として知られ、日露戦争時には東郷平八郎元帥がここで日本海軍の演習指揮を執った。現在は南西地域の防衛強化のため自衛隊基地の建設が進められている。将来にわたり国防の要であるはずのこの島に、不穏な動きがある。産経新聞編集委員の宮本雅史氏のレポート。
* * *
ここ数年、奄美大島で目的不明の土地取引が活発化している。舞台は、本島東部の沿岸部にある高台だ。2016年9月、この高台の一角にある町有地6937平方メートルが、香港資本の総合商社会長で、香港在住の日本人A氏に払い下げられた。A氏の妻は「アジアの海運王」と称される香港経済界の重鎮の次女で、中華圏に幅広い人脈を持つことで知られる。
A氏の会社は、高級外車の販売や貿易、保険業などをこなす一方で、海図や海事情報を扱うインテリジェンス系の業務も手がけるとされる。
A氏は高台周辺の土地も買い進め、2004年3月に5393平方メートル、2014年3月に3765平方メートル、同年7月に3204平方メートルの計1万2362平方メートルを個人の名義で購入した。町には「美術館を作りたい」と説明したというが、本当の狙いは不明だ。A氏は私の取材申し込みをやんわりと拒否した。
不気味なのはA氏の動向だけではない。2017年9月、奄美市内のB社がこの地区の土地3か所計1万1471平方メートルを購入、その日のうちに都内のC社に転売した。地元業者らによると、B社は米国系の企業というが、実態はわからない。