韓国人の元徴用工4人が、日本による朝鮮半島統治時代に「強制労働させられた」として、新日鉄住金に損害賠償を求めていた裁判の差し戻し上告審(10月31日)で、大法院は被告側の上告を棄却し、原告の元徴用工に対して1人あたり1億ウォン(約1000万円)の賠償を命じた。はっきりさせておかなければならないのは、元徴用工に対する補償については、すでに日韓両政府の合意のもと解決済みであるということだ。
日韓国交正常化が実現した1965年に、「日韓請求権協定」が結ばれた。協定によって、日本政府は韓国に対して「3億ドルの無償経済支援」を行ない、その代わりに韓国は「個人・法人の請求権を放棄」すると決まった。協定には請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。元徴用工に補償しなければいけないのは、日本政府でも新日鉄住金などの日本企業でもなく、補償金を“預かっている”韓国政府なのだ。
本来は、元徴用工に対して補償する責任を負っている文在寅大統領ら韓国政府首脳が真っ先に、「この司法判断はおかしい」と表明しなければならないはずだ。しかし、今回の判決の背後にはむしろ、文氏の“意図”があったとみられている。
韓国大統領の権限は強大で、行政権全般にとどまらず、大法院長官の任命権をはじめとする司法権や一部の立法権にまで及ぶ。その統治機構のあり方が、数々の政治腐敗の温床となってきたわけだが、今回、判決を下した大法院の金命洙長官は、文氏の大統領就任後に任命された人物だ。日韓問題に詳しい麗澤大学客員教授の西岡力氏がいう。
「金氏は、革新系判事が集まる研究会の会長を務めてきた筋金入りの左派。それまでは地裁の所長に過ぎなかったにもかかわらず、文氏が異例の大抜擢をしたのは、元徴用工の裁判で日本企業に厳しい判決を下すためだったとみられています」