表彰台上の「王者」はカメラのフラッシュを浴びながら隣に並ぶ「若い彼」に優しく手を差し出した。彼はためらうような仕草を見せながら、それでも王者の隣に立った。兄弟のように親しくもあり、同時にライバルのようでもある不思議な距離。一体、2人の関係は──。
11月4日(日本時間5日)に閉幕したフィギュアスケートGPシリーズ「フィンランド大会」。羽生結弦(23才)は4つの世界新記録を打ち出した。4回転トウループとトリプルアクセルのコンビネーションは世界初の快挙。ショートで106.69点、フリーでは憧れのエフゲニー・プルシェンコ(36才)がかつて演じた『ニジンスキーに捧ぐ』をオマージュした新プログラムで190.43点、総合得点は297.12点。結果的に、すべてが今季のルール改正後の世界最高得点だった。
「やっと新しいスタートを切れた」と語り、今季最高の点数を叩き出したフリーの演技終了後も淡々とインタビューに応じた。
羽生が滑走する4番前、緊張した面持ちで滑り出した17才の少年がいた。どことなく羽生に雰囲気が似ている。BGMの『ロミオとジュリエット』に合わせた演技で、4回転トウループを成功。しかし、続いた4回転サルコウで転倒。その後のコンビネーションジャンプも回転不足だった。ファンが固唾をのんで見守った中、羽生もまた他の出場者の誰より、彼を気にかけていた。羽生が特別視するのは、韓国の男子フィギュアスケート選手、チャ・ジュンファン(17才)だ。
◆羽生より若く4回転を跳べた
羽生とジュンファン──。2人には浅からぬ縁がある。出会いは3年前、羽生がオフシーズンを過ごすカナダ・トロントのスケート練習場「クリケットクラブ」だった。
「そこは羽生が2012年から指導を受けるブライアン・オーサー氏のチームの練習拠点。ジュンファンは“どうしてもオーサー氏に指導してもらいたい”と自ら志願。2015年3月、韓国からトロントへと渡りました」(フィギュア関係者)
同じくオーサー氏の教え子で、韓国では「国民の妹」と愛されたキム・ヨナ(28才)の影響もあったが、羽生への憧れも強かった。
「髪形から仕草、昔のユヅを思い出すようだった」とカナダ・クリケットクラブのスタッフが言う。実力もそうだ。
「ジュンファンは子役俳優をしていた小学2年生の頃にスケート選手を演じ、その役作りのためレッスンを受けてから、スケートにハマった。成長は著しく、11才で5種類もの3回転ジャンプをマスター。4回転は羽生選手でも15才で初めて成功していますが、ジュンファンは14才で完璧に跳べていました。身長172cmの羽生に対し、ジュンファンはすでに177cmを超えています。体格も成熟し、表現力も将来性を感じます」(韓国のスポーツライター)
トロントでの生活も瓜二つ。