【著者に訊け】菊地浩平氏/『人形メディア学講義』/河出書房新社/2500円+税
人形メディア学、または〈人形と人間のあいだ〉を考えると聞いて、今どきの学生が羨ましくなった。『人形メディア学講義』は早大文学学術院講師・菊地浩平氏の学内きっての人気講義をまとめた初の一般書。映画『トイ・ストーリー』やリカちゃん等、敷居は低く設定しつつも、内外の人形史をふまえ、耽美的で高尚な澁澤龍彦的人形愛をも更新しようとする、気鋭の若手らしい刺激的な1冊だ。
例えばスヌーピーに登場する〈ライナスの毛布〉や、人形=いずれ卒業する対象という刷り込みに関しても、氏は「本当にそうか?」と率直な議論を呼びかけ、むしろその人形と人間の間に起きた現象について考察を進めてゆく。すると人形とはいわゆる女子供の愛玩物どころか、あらゆる人間関係を成熟に導き、人間とは何かという大命題すら孕む、普遍的メディアでもあった。秋も俄かに深まった10月。早大・戸山キャンパス内の研究室には1体の藁人形が。
「あ、これは講義に使おうと思ってヤフオクで買ったんです。確か値段は1000円くらいで、実は意外に可愛かったりする(笑い)。それを呪いの道具のように感じるのもたぶん昔話や映画の影響で、ただの藁でできた人形を特定の誰かに見立てる人間の能力の方に、僕は関心があるんです」
元々は演劇やお笑いへの興味から、イギリスの喜劇作家、サミュエル・フットらの実験的人形劇を研究対象としてきた菊地氏。人形は、人間やこの世界を知る上で格好の補助線だという。