【書評】『筒井康隆、自作を語る』/筒井康隆・著/日下三蔵・編/早川書房/1300円+税
【評者】坪内祐三(評論家)
SFに殆ど興味ない私であるが、筒井康隆の本はかなり読んでいる。文庫本だけでなく単行本も買った。最初に買った単行本は『暗黒世界のオデッセイ』(晶文社)で、これは植草甚一や小林信彦らの“晶文社ヴァラエティブック”の一冊として買ったのだ。
それから『大いなる助走』も『不良少年の映画史』も『みだれ撃ち涜書ノート』も『美藝公』(大判で横尾忠則のイラストが印象的だった)も買った。私の学生時代一番トンガっていた文芸誌は『海』(中央公論社)だったから、同誌に連載された『虚人たち』も初出誌で読んだ。当時、私が必ず目を通していた純文学作家に大江健三郎、後藤明生、色川武大、田中小実昌、小林信彦がいて、筒井康隆もその一人だった。
それから私が自慢出来るのは、筒井康隆が書いた芝居の舞台を目にしていることだ。学生時代の私の恩師に劇作家で評論家の福田恆存がいて、世間から「保守反動」と言われていた福田氏は筒井氏の戯曲を高く評価し、自身の劇団「昴」で上演したのだ。私は一九八一年十月二十七日、筒井氏の戯曲『三月ウサギ』(主役の高円寺享介を演じたのはあの北村総一朗)が新宿の紀伊國屋ホールで上演された時、その幕間に筒井氏と福田氏が談笑していた姿をありありと憶えている。