好調な作品は脇の役者まで光るのが常。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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NHK連続テレビ小説『まんぷく』もスタートして1ヶ月半。視聴率は20%の大台が続き安定飛行中のもようです。
物語は──敗戦で混乱した世の中。新しい仕事「たちばな塩業」を立ち上げた夫婦・福子(安藤サクラ)と夫・萬平(長谷川博己)の苦闘ぶりが描かれています。慣れない塩作りの苦労。品質はなかなか上がらず、人手を集めたはいいが思うように生産量も伸びず、十分な給与を払えず。不満をつのらせる従業員、人を使う苦労は想像以上と苦悩する萬平。
そこへ現れたのが、世良勝夫(桐谷健太)。萬平は友達として世良に塩の販売を任せた。だがどこか怪しい。売り上げをピンハネしている気配。世良は萬平を利用して一人で金儲けしようと企んでいるのか、それとも自分なりの販売路を開拓しようと躍起なのか?
これまで世良の行動は結果として立花夫婦に刺激を与えてきたけれど、今後も新局面を拓いていく力として必要不可欠となる相棒なのか? 「友達なの、それとも詐欺師なの、どっちなの?」と視聴者としてはやきもき。とにかく回を増すごとに、強い印象を残していく世良さんなのです。
演じている桐谷健太さんはドンピシャのはまり役。ご自身も大阪のど真ん中・天神橋の出身だけに、生粋の大阪弁は流れるよう。加えて、浪速の「商魂」も絶妙に演じて見せてくれます。押したり引いたり、ああ言えばこう言う。人なつっこく、ふっと隙を見せ相手の懐に深く入りこむ。人あたりの良い三枚目のようでいて、実は眼光鋭く世の動きを把握し、商売を算段する超リアリスト。「一緒にラーメンをすすった仲」という意味ではたしかに友達。ですが、実は世良が最も惚れ込んでいるのは萬平の才能かも。そこに「商機」を見出そうとしているのかもしれません。
こっそり塩を闇市に流し売り上げを懐に入れるという、狡っ辛さが気になる。しかし、世良は単なる小悪党ではないはず。かつて世良が吐いた、あの名セリフがそれを示しています。
「戦死した人間と無事で帰ってきた人間。抑留された人間と帰国できた人間。飢えてる人間とたらふく食うてる人間。不公平が当たり前やのに、それを文句言うてる時点であかんのです」
実に「うがったセリフ」。戦死した人と生きて帰ってきた人──立場の違う複数の人生が、世良の目には映っている。世の中を俯瞰し、複眼的に分析し生きるための冷徹な判断もできる人。という意味で、技術屋一直線で物事を純粋に突き詰めていく「単眼的」な萬平とは、好対照です。つまり世良と萬平、まったく異質の二人がセットとなって展開していくからこそ、この物語は屈強であり深味が出てくるのでしょう。