“完全ガチンコ場所”であるがゆえの展開となった。九州場所前、スポーツ各紙は白鵬、鶴竜のモンゴル2横綱が休場を決めるなか、一人横綱となる稀勢の里が“絶好調”だと伝えていた。
〈稀勢 もちろん優勝 寡黙な男が珍しく断言〉(スポーツ報知、11月7日付)、〈出稽古で手応え 稀勢もちろん優勝〉(日刊スポーツ、同)といった派手な見出しが躍ったが、いざ場所が幕を開けると初日から4連敗。5日目からは休場に追い込まれた。
メディアの“ヨイショ報道”が先走ったわけではない。稀勢の里本人も自信を持って臨んだはずの本場所だった。
「秋巡業にもフルで参加し、力が戻ってきているという自信があったようだ。もともと稀勢の里は、先代の師匠である鳴戸親方(元横綱・隆の里、故人)の方針から、他の部屋への出稽古にはほとんど行っていなかったが、今回の場所前は、対戦が予想される力士のところに出稽古に行った。そこで調子よく勝っていたから、上位陣とも十分やれる感覚があったのだろう。だが、フタを開けたら全然違った」(協会関係者)
稀勢の里は出稽古で“圧勝”していた相手に、本場所で相次いで金星を献上した。それこそが、全員が全力でぶつかり合う“ガチンコ場所”の証明だった。
2日目に敗れた妙義龍(前頭1)とは、出稽古の三番稽古では13勝2敗、同じく3日目に黒星を喫した北勝富士(前頭1)とは9勝3敗だった。