諜報や謀略、紛争などの舞台裏をリアルに描く『ゴルゴ13』。様々なハードミッションにひとりで立ち向かうゴルゴ(通称G)の“強さ”の秘密について、元外務省主任分析官の佐藤優氏は「インテリジェンス能力」にあるとみる。ゴルゴのインテリジェンスとは何か。佐藤氏と、作者さいとう・たかを氏が短期集中連載で「Gのインテリジェンス」を解き明かす。
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佐藤:『ゴルゴ13』の『夢の国』という作品に、トランプ大統領がモデルと思しき「プラント大統領」が登場しますが、彼がファストフードのハンバーガーをおいしそうに食べているシーンが描かれていました。トランプらしいエピソードだと感心しました。「食」に注目するというのはインテリジェンスの基本です。
さいとう:食事には「人間」が出るからね。そこにあらゆる情報が入っている。だから逆に、ゴルゴの食事シーンはほとんど描かないんです。ゴルゴの情報を明かしてしまうことになりますから。
佐藤:ロシアの日本大使館にいた当時、エリツィン大統領の健康問題は大きな関心事でした。アルコール依存症だったことがわかっていたので、アルコールに口をつけたかどうか注視していました。ある時、首脳会談でステーキが出たのですが、肉を小さく切り刻むばかりで、口に運ばない。付け合わせの野菜ばかり食べている。これを見て、タンパク摂取制限されていることがわかりました。
さいとう:それはかわいそうだ(笑)。私は今日も朝からステーキを食べてきたけどね。いまでも肉さえ食べていれば機嫌がいいんです。その代わり、3日も肉を食べないでいると、頭の中に“肉”がちらついてくる。
佐藤:エリツィンに限らず、世界の主要人物の「食」と「健康」には、世界中のインテリジェンス・オフィサーが目を光らせています。一時期、北朝鮮の金正恩委員長が痛風と痔瘻(じろう)を持っているんじゃないか、と話題になりました。痛風と痔瘻は判断を狂わせる材料になる。たとえばミサイルを撃とうかどうかという時に痛風の発作が出て、カッとなってボタンを押すことはあり得ます。痔瘻だと長時間の会議に耐えられないので、情報が十分に入ってこず、判断を狂わせることがある。シンガポールで行なわれた米朝首脳会談の際、専用のトイレを持参したとニュースになっていましたが、情報機関が彼の健康情報を把握できないようにするためでしょう。彼らは、相手首脳の大便や小便を持って帰ることを日常茶飯でやっています。