国内

否応なしに他人の時間を奪う電話というハラスメントツール

いまや電話が敬遠される時代に?

 作家の甘糟りり子氏が、「ハラスメント社会」について考察する。今回は、電話をする、電話を受けることのストレスについて。

 * * *
 友人との会食は看板のない、紹介制の店だった。地図アプリで近くまで行くものの、なかなかたどり着けない。待ち合わせ時間はもうすぐだ。あせりつつもうろうろしていると、友人からラインがきた。

――場所、わかる? 大丈夫?

 私は、一瞬電話をかけようかと迷ったけれど、思いとどまりラインで返した。

――今、○○大使館の前なんだけど。
――それ、行き過ぎ!
――了解、少し戻った。コンビニの隣のマンションの地下?

 なんてことを、薄暗い道端で、老眼の目を細めて必死に字を打った。正直、電話をかけるほうが楽だし、手っ取り早い。でも、相手がもう席についていて、そこに電話の着信音が鳴り響いたら周囲の人にも迷惑だ。もしかして、まだ地下鉄に乗っているとしたら、それもやっぱり周囲に迷惑である。電話をかけることによって、相手にマナー違反をさせてしまう。それを考えると、少々目の負担になってもラインやメッセンジャーでの連絡となる。

 今や、私にとって電話をかけるという行為はすっかりハードルの高いものになった。電話は「いきなり相手の時間を奪うもの」という意識が刷り込まれたからだ。

 いくつかのきっかけが同じ時期にあった。

 資料が欲しい案件があって、自分より一回り年下の編集者に電話をかけた時の反応もその一つ。私が名乗るのを遮るように、こういった。

「何かあったんですか?」

 よほど緊急の用事かと勘違いされた。用件を伝えると、調べて連絡しますといわれ、答えはメールで返ってきた。資料の詳細をいちいち口頭で伝えられても困るので、この対応は当たり前。ということは、こちらもメールなりラインなりで頼むのが礼儀なのだろう。相手がずっと若い場合は、上から目線に見えないよう気をつけなくてはならない(中年って大変なのよ…)。可能な範囲で相手のやり方やペースに合わせている。

 昨今、編集者とのやりとりのほとんどはメールである。新しい依頼がある場合もまずはメール。で、その後に改めて電話で挨拶をしてくる人と、そのままメールだけの人に分かれる。

 …のだけれど、先日は「メールで詳細」の前に「電話で挨拶」という人がいた。いきなりメールでお願いをするのは失礼という考えなのだろう。丁寧な人である。ところが、タイミングが合わなくて私はなかなか電話に出られなかった。その度に留守番電話には恐縮した口調のメッセージが残される。正直なところ、「要件をメールで送ってくれればいいのに」と思った。それなら手が空いた時に読めるし、返答もできる。何度目かの電話でやっと話せた時、お互い謝ってばかりであった。今どきの合理主義的な起業家なら、この謝りあっている時間こそ「無駄以外の何物でもない」というんだろうなあ。

関連記事

トピックス

女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
漫画家・柳井嵩の母親・登美子役を演じる松嶋菜々子/(C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
松嶋菜々子、朝ドラ『あんぱん』の母親役に高いモチベーション 脚本は出世作『やまとなでしこ』の中園ミホ氏“闇を感じさせる役”は真骨頂
週刊ポスト
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト